キャプテンコラム第2回 「やさしい時代に生まれて〈その②〉/やさしい時代における電子書籍とは?」

更新日:2012/4/4

ダ・ヴィン電子ナビ キャプテン:横里 隆

ぼくたち電子ナビ編集部は学生時代の部活動のようなところがあります。
だから編集長じゃなくてキャプテンなのです。
そしてネットの海を渡る船長という意味も込めて。
みんなの航海の小さな羅針盤になれたらいいなと。
電子書籍のこと、紙の本のこと、ふらふらと風まかせにお話ししていきます。

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さて、今回は電子書籍の話になります。

前回は、ネット社会が浸透するとともに、“やさしさ”がキーワードになると言いました。その“やさしさ”をもう少し違う側面で見てみましょう。

たとえば、“やさしさ”を別の言葉に変換してみましょう。
するとそれは、「どっちでもいいよ」という言葉になると思うのです。
「えっ! 何それ?」と思った方は多いのではないでしょうか。
ときと場合によっては、投げやりに聞こえるかもしれない言葉です。
迷って悩んで誰かに相談したときの返事がそれだったら、ちょっと腹が立つかもしれません。
でも、「どうでもいい」と「どっちでもいい」は違うのです。

前者こそ投げやりで相手を突き離した、“やさしくない言葉”です。
対して後者は、「きみの選択がどっちでも、ぼくは受け止めるよ」という大きな肯定が含まれています(いつもそうとは限りませんが)。

一方、「どうしてもこっちでなきゃダメ」という強制力の強い言葉もやさしくないものです。「どうでもいい」という無関心(=やさしくないもの)を片方の極として、「どうしてもこっち」という強制力(=これもやさしくないもの)をもう片方の極とした、変化のグラデーションの真ん中で、ゆったりとたゆたっているのが「どっちでもいい」という“やさしい言葉”だと、ぼくは思うのです。

さて、話を戻します。
“やさしい”ネット時代の“やさしい”電子書籍とはどのようなものなのでしょうか。何作か魅力的な電子書籍をみたとき、前述の「どっちでもいい」が重要な要素になっているように思います。

ぼくたちが主催した「ダ・ヴィンチ電子書籍アワード2011」で入賞した作品たちも同様です。

たとえば、コミック・絵本賞に選ばれた『センネン画報』は、著者のセンスが光る詩的な短編集ですが、紙の本では書かれなかった著者のコメント文(解説文)が電子版には一作一作付けられています。読者はそれを表示してもしなくても「どっちでもいい」のです。すなわち、自分の解釈だけで楽しんでも著者の想いを噛み締めながら読んでも「どっちでもいい」ということです。

読者賞に選ばれた『ママ、読んで!』は、母親の朗読音声を吹き込んで楽しんでも、南果歩さんのプロの朗読音声で再生して楽しんでも、「どっちでもいい」ものでした。

「どっちでもいいから、あなたが好きなほうを選んでください」と、そうした電子書籍たちがやさしく話しかけてくれているような気がします。

あれもこれも、いろいろな機能を盛り込むことができる電子書籍ですが、大盛りのリッチコンテンツにするよりも、読む人にそっと話しかけてくれるようなものの方がずっといいことだってあるのです。

やさしくて魅力的な「どっちでもいいよ」を提示してくれる電子書籍は、これからもたくさん生み出されることでしょう。

みなさんもぜひ、そんな電子書籍と出会ってみてください。

(つづく)

※キャプテンコラムは基本、毎週月曜日の12:00に更新予定です。次回、キャプテンコラム第3回は、「泡とネットとアミノメの世界の中で」の予定です。今回もまた、つたない文章を最後まで読んでくださってありがとうございます。どうかあなたが、日々あたたかな気持ちで過ごされますよう。

よこさと・たかし●1965年愛知県豊川市生まれ。信州大学卒。1988年リクルート入社。94年のダ・ヴィンチ創刊からひたすらダ・ヴィンチ一筋! 2011年3月末で本誌編集長をバトンタッチし、電子部のキャプテンに。いざ、新たな航海へ!

第1回 「やさしい時代に生まれて〈その①〉」
第2回 「やさしい時代に生まれて〈その②〉/やさしい時代における電子書籍とは?」
第3回 「泡とネットとアミノメの世界の中で」
第4回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その①〉/メリットとデメリット」
第5回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その②〉/出版界の反撃」
第6回 「海、隔てながらつなぐもの」
第7回 「ITユーザー(あなた)は電子書籍の行間を読むか?〈その①〉」
第8回 「ITユーザー(あなた)は電子書籍の行間を読むか?〈その②〉」
第9回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その①〉」
第10回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その②〉」
第11回 「大きい100万部と小さい100万部」
第12回 「ぼくがクラシックバレエを習いつづけているわけ」