三池崇史監督、無期懲役囚から贈本される

三池崇史

2012/6/28


 三池監督のもとにある日、1冊の小説が届いた。現在、殺人罪で服役中の美達大和が書いた『夢の国』。本は関係者を介して本人から送られてきたそうだ。

「美達さんが僕のVシネマ作品のファンだったそうなんです。でもまったく面識がなく、しかも無期懲役囚の方からの贈本ということで、最初は驚きました」

 戦中、出稼ぎで日本を訪れ、戦後には文字通り、力で成り上がっていった在日韓国人の菊山。『夢の国』は美達がそんな自らの父親を題材にした処女小説だ。

 「少し荒削りなところもありますが、文章の端々から父親の物語を書きたいという衝動や情熱が伝わってきますよね。しかも面白いのが、自分のことにはほとんど触れてないんです。普通なら彼が犯した殺人の理由をクライマックスにして描くはずなのに、そこが完全に欠落している。あくまで父親が中心なんですよ。その貫き方や潔さに小説のすごさを魅せつけられた気がしました。これは映画じゃ、絶対に太刀打ち出来ないなって」

 菊山の生き方はとても力強く、そして明瞭だ。嘘や我慢が大嫌い。溺愛する息子でも信念に背けば容赦はしない。むろん、人生で立ち止まることもしない。

 「どの時代にも、破天荒に一生を走り抜ける人っていうのはいるんですよ。僕らの世代で言えば梶原一騎さんのようなね」

 三池監督にとって梶原一騎は、「真のヒーローで昭和の象徴のような存在」だそうだ。そして、「この菊山からも同じ匂いを感じましたね」と笑う。

 そんな梶原一騎の代表作である『愛と誠』がこの度、三池監督によって実写映画化された。バンカラな誠と彼に尽くす愛の純愛劇。今作ではそこに音楽劇の要素を加え、新たな世界観を生み出した。その理由について、「家庭環境の差が激しい学生運動の時代の話ですからね。そこで全員をフラットに繋げられる要素として、誰もが知る当時の曲を盛り込んだんです」と話す。

 三池監督と言えば、近年多くの漫画やアニメを実写化し、話題を集めている。それだけに今作でもその手腕に期待が高まる。

 「僕が原作ものを映画化する時、始まりの部分を特に深く読み込むようにしているんです。たとえば全10巻の作品なら、最初の3巻ぐらい。まだ絵も物語の進め方もヘタだけど、そこには作者の想いやおもしろくなっていく理由がすべて詰まっている気がして。そうした、いわば作品の原石とも言える部分をいかに拾い上げるかが重要なんですよね」

 大胆なアレンジでも、核だけはブラさない。それが三池流だ。

 「それが僕らしさなんですかね。今回も、あの世で梶原さんに殴られないような内容にはなってると思いますけどね(笑)」

■三池崇史さんが選んだ1冊
夢の国』 美達大和 朝日新聞出版 2100円
韓国の貧しい農家に生まれ、金を稼ぐために18歳の時に日本の鉱山で働き始めた菊山尚泰。やがて男は、荒れた戦後の日本で、腕力と自分の信念だけを武器に、巨額の富を得ていく。『人を殺すとはどういうことか』などのノンフィクション作品で知られる美達大和が、実の父親をモデルに書き下ろした小説デビュー作。

取材・文=倉田モトキ
(ダ・ヴィンチ7月号「あの人と本の話」より)