まつもとあつしの電子書籍最前線Part4(後編)電子本棚『ブクログ』と電子出版『パブー』からみる新しい読書の形
更新日:2018/5/15
こんにちは、まつもとあつしです。 先週より引き続き、paperboy&co.の吉田さんにお話を伺いました。 ※前編はこちらから※ |
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吉田健吾(株式会社paperboy&co.取締役副社長 ブクログ・パブー プロデューサー)●1998年同志社大学商学部卒業。応用通信電業株式会社を経て2004年、「ロリポップ!」などの個人向けインターネットサービスを運営するpaperboy&co.に入社。ブックレビューコミュニティ「ブクログ」、電子書籍作成・販売プラットフォーム「パブー」を企画・プロデュース。 |
ブログ感覚で電子書籍が生まれる「パブー」 ――では引き続き、paperboy&co.の電子書籍サービス「パブー」について伺っていきたいと思います。こちらも注目を集めているサービスですが、始まって間もないので、まだ、ダ・ヴィンチ読者も、パブーの作品を読んだことがないという人も多いはずです。 吉田:去年の6月22日にオープンしていますので、ちょうど1年を迎えたところですね。 特徴としては、ブログとほとんど同様のインターフェイスと手順で、電子書籍が公開できるというものです。自分で書籍を書いて売ることも出来るし、いち読者として買うこともできる。無料本はもちろん、有料本も10円から3000円の範囲内であれば値段の設定も自由ですし、1章ごとに少額で販売することも可能です。 |
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パブー 我々の中では、PDFとePubのファイルができますというところをもって、電子書籍のファイルができると言っています。これがなければ、ほとんどWebで読めるだけということになって、ブログと変わらないので。イメージとしては、PDFとePubがパッケージングされるというところで、ブログとの意識的な違いがあるのかなと。 ――コピーを制御するためのDRM(デジタル著作権管理)はかからないですね。 吉田:DRMをかけない理由は、いくつかあるんです。 1つには小さなプラットフォームにおける自由度の問題です。(Kindleのように)DRM自体が、プラットフォーム化するということはあり得るのですが、現状、端末を区切るとか、ダウンロードの回数を制限するということで、読者側からすると、紙の本よりも、自由度が下がってしまうケースが多いんですね。 わざわざ、紙に比べて自由度が下がるものを選択する理由がないと思いますし、現状のDRMはなかなか、採用できるものがないなと思っています。 もう1つは、パブーのコンセプトとして、インディーズ・アマチュア・セミプロの人達に余計なコスト負担をかけたくない、ということがあります。 これまで、紙の流通だと、コストの問題が大きかったんですね。自費出版でも、やっぱり3百万円とか4百万円と、かかってきてしまう。なので、紙だとなかなか通らなかった企画が、たぶんプロの方達の中でも、あるだろうと思っています。 ブログ同様の個人レベルのコンテンツ作品というのもあるでしょうし、そういった人達の発表の場と、単に発表するだけではなくて、それによる対価が得られて、次の活動の資金となり、次の活動を支えていく、そんなサイクルができることを、ゴールとして考えています。 パブー誕生の背景 ――なるほど。ブログやSNSサービスを手がけてきたpaperboy&co.が、そもそもそういったカテゴリに展開しようと思ったのは何故なんでしょう? 吉田:3つぐらい、伏線があります。 1つはやはりブクログです。ブクログを我々の会社で引き受けて、版元さんとのおつきあいが少しずつでき始めました。 私も業界研究ということで出版業界がどういう状況なのか見ていくうちに、アメリカでキンドルが始まる、Amazonが電子書籍を展開しているぞ、というインパクトのある出来事に向き合うことになったんです。 ちょうどそんな中、マンガ家のうめさんが、個人で作品をキンドルで発表されたとブログで書かれていたんですね。うめさんが、たまたまうちのブログサービスを使っていただいていたこともあって非常に親近感をもちました。 これは僕たちもやってみようということになりました。当時うちの社員だった人間がマンガを描いていたので、1つ頂戴とお願いして、それを英訳してKindleでアップロードしたんですね。そうしたら、全部で1週間かからないぐらいだったんです。翻訳に一番時間がかかったぐらいで。これは非常に簡単だなと。個人でも、こういうふうに本というか、作品というか、公開できる状況も、既に来ているんだなということを実感したんです。 ――実感されたわけですね。 吉田:ただ冷静になるとやっぱりちょっと面倒なところもあって。当時は専用フォーマットで入稿する必要があるのもネックでした。現在では、キンドルも簡単になっているらしく、ePubで入稿する方法もあるようなんですが。いずれにしてもわれわれはブログのサービスをやっていましたので、じゃあ、ブログみたいな感じで、できるといいんじゃないのと。それがきっかけですね。 もう1つが、社内のプレゼン大会を年1回やっていて、paperboy&co.のPとプレゼンのPをかけて、「P-1グランプリ」と呼んでいるんですけど。3年前に、マンガの共有公開サービスみたいな企画が出てきたんです。当時ちょうど、マンガ家さんと版元さんで不協和音が表面化してきた時期でした。 ――ありましたね。 吉田:そういう例がちょこちょこ出てきていて、Twitterのようなツールも登場し、マンガ家さん自身が、自ら作品や意見を発信できるようになってきた。 つまり、マンガ家さんが個人で動けるということがいよいよ明らかになってきたタイミングだったんですね。そのときに出ていたアイデアは、プロの方でなくて、どっちかというと、同人寄り、アマチュアの方々を対象とした話だったんですけど。いずれにせよ、日本のマンガを世界でもっと、発表できるんじゃないか? そういったサービスを作るとおもしろいよ、というような企画があったんですね。 そのプランは採用こそされなかったんですけれども、社内でもとても好評だったので、これはなんとか形にできないかなということで、リサーチは進めていました。市場性や、どういう企画にブラッシュアップしたらいいか、海外に似たようなサービスはあるのかとか。そういうのを見ていて。ちょうどそのタイミング3つが合ったということが、去年の頭ぐらいです。 ページを「めくらない」スタイル ――最初パブーを拝見したときに、本当に――こういう言い方すると語弊があるかもしれませんが――ブログそのままで驚いたのをよく覚えています。多くの場合、電子書籍をWeb上で展開するとなると、本を模したインターフェイスになって、ペラペラめくる仕組みになることがほとんどです。そういう選択を取らず、スクロール一本にされたというのは、けっこう思い切ったことではなかったのでしょうか? 吉田:そうですね。ただ、ブログを意識したのは、どちらかというと、書く側の話です。作る時に、ブログと同じインターフェイスで作って、出来上がるといいねという感じだったんですね。 パブーを作り始めた時点で、まだiPadの日本版が出ていなくて、いつ出るんだろうと言われているようなタイミングだったので、実は、その点はキンドルを想定していたんです。 いずれにしても、Webの画面というよりも、電子書籍端末で読むというのを、当時一番念頭に置いていたんです。したがって、「めくって読む」というようなインターフェイス部分は、そっちに任せちゃおうと。PDFかePubができれば、そっちで読めるよねと。 ――ページネーションなんかは、もう、リーダーがやってくれるであろうと。 吉田:そうですね。あとは我々はWebのサービスをずっとやってきている会社なので、なるべくWeb上にオープンな形でコンテンツを置いておきたかったんですね。 「オープンであるべき」という理念的な話というよりは、どちらかというと、SEO(検索エンジン対策)的な話で。検索エンジンからクロール(コンテンツを自動的に取得しインデックスを生成する)していってもらって、その結果、検索エンジン経由で人が来るというのが、ブクログでも、非常に大事なんです。 ブクログのトップページから入って、人がこう行くっていう導線が当然あるんですけれども。検索エンジンから無数に、いろんなところから入ってくる人のほうが、トータルのトラフィックが大きいんですね。FLASHなどでペラペラめくれるようなインターフェイスにしてしまうと―― ――SEOと相性悪いですよね。 吉田:そうなんです。現在は、同じファイルにテキスト情報も含められるのでそうでもないのですが、パブーの開発当時だと、ちょっと、検索エンジンと相性が悪いなというのがあって。 また、検索エンジン経由で途中のページから入ってくるお客さんもいる。そういう人に、前後の文脈がすぐわかるんだろうかという課題もありました。むしろそれだったら、ブログと同じインターフェイスのほうが、途中から入ってきた人にも、わかりやすいんじゃないのと。検索エンジンでページの途中に入ってくる方は多いわけですから、それには慣れているはず。 ――なるほど。おもしろいですね。 吉田:なので、そっちはもう割り切っちゃいましたね。 書籍は「巻物」に戻っていく ――今、電子書籍、特に専用端末を買うお客さんは、30代~40代の本好きの中年男性であるということは、よく指摘されています。パブーの場合は、作品を見ていても、おそらくもう少し年齢が低いのではないかと思いますが、いかがでしょうか? 吉田:年齢層はけっこうかなりばらけています。逆にブログと比べると10代の人は少なくて、高齢の方が、ブログよりは目立つという様子ですね。 たぶんそれは、もともと自費出版とかを考えられていたような人達が、あ、なんか、電子だと、簡単に、そして安くできるぞというので、注目されたのかなと思います。ブログだと、20代、30代というのは、かなりのボリュームゾーンなのですけれども。もうちょっとこう。 ――拡がっている? 吉田:上のほうに拡がっている感じです。 ――なるほど。ブログに近いユーザーインターフェースで、ユーザー層に傾向が出てくるのかなと思ったんですが、そういうわけではなくて、自費出版のように、自分で本が出せるというところに、ひかれて、またそういうものが読めるということで集まってきていると。 吉田:はい。ただパッケージとして出版する際に、電子書籍全般にいえることなんですけれども、ページというものの概念が全然違う、崩れて混在しているのが現状です。我々で採用しているePubとPDFでも、ページの概念って、まったく違うんですね。 ePubの場合は、中身はHTMLなので、HTMLのファイルが、5つあったとしても、5ページではないです。例えばこれをiBooksで読むと、1つめのファイルに、ものすごくテキスト量が多いと、5ページ以上の何ページにも分解されて表示されます。さらにePubですと、読み手側でフォントのサイズ変更ができるのでページ割が予測できません。 ――リフロー(文字の大きさを変更し、それに応じてページ送りの単位も自動で変更する)されてしまうと。 吉田:はい。文字のサイズを変更すると、ページ数が増えますよというようなところがあってですね。リフローの概念がやっぱり、これまでの紙の書籍をイメージしている人にとっては、ものすごく取っ付きにくくて。ページ自体を自分でレイアウト固定できないというか。そこのとまどいは、かなりありますね。パブーでePubとPDFを両方作っているとなおさらです。 ――PDFであれば、リフローできませんが、ページ送りの単位は固定されますからね。 吉田:ePubに割り切ってしまっていれば、そういう違和感は生じなかったかも知れないのですが、マンガのことを考えて、PDFを使わざるを得ないという事情があります。 ePubのリーダーって、あんまり、ピンチイン、ピンチアウトで、拡大縮小できないものがなぜか多くて。なので、マンガをスマートフォンで読もうと思うと、全然読めないんですね。だから、拡大すると読めるPDFも必要なんです。 できれば文字ものはePubを使ってもらって、画像ものはPDF使ってもらうのが、いいかなとは思ってるんですけれども。文字ものでも、レイアウトをきっちり固定してしまいたいニーズというのが、やはりありまして。 ――作者さんによってはこだわるところですね。あるいは小説でもページ送りを演出の一部として使う作品などもあります。 吉田:その部分はちょっと、ブログのインターフェイスというよりは、ファイルフォーマットの性格、リフローするかしないかというところでの戸惑いというのはあるような気がしますね。 ――それこそキンドル自体も、ページの概念には混乱がありました。最初はページ番号が原書と同じようにふってなくてけっこう不評を買って、今は、ページ番号をなぜか2種類振ってあるっていう、ちょっと変な状況になっています。これからみんなで、使いながら、考えながら、デファクトが決まっていくということに、なるのかとは思っていますけれども。 吉田:むしろ、私たちはパブーの「縦のページスクロール」というのを、巻物に見立てているんですよ。昔は文書って全部巻物だったのが、技術が多少進んだら、本の形で綴じられるようになって。また巻物に戻るのも、いいじゃないかということを言ってらっしゃる人もいて。それけっこう、なんとなく納得できるなと。 ――確かに。巻物。 吉田:ページスクロールですと、それがベストではないかも知れませんが、右側のスクロールバーの長さで、全体量の目安がわかるんですね。インターネットに慣れている人というのは、縦スクロールの巻物形式というのは、けっこう取っ付きやすいのかなと。 |