人生を幸せに生きるために必要な心の持ち方を教えてくれる本

暮らし

更新日:2012/7/12

 例えば、ある日思いもよらない病気を患い、死に直面した時、あなたならどうするだろうか?
「これまで死を受け入れるための教えを説いた本はありましたが、“平気で生きる”という考えを書いたものはなかった気がします。この本では、“運命は決まっているんだから、ジタバタせず普段通りに生きていけばいいんだよ”ということを教えてくれるんです」

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 作者は小林正観。彼は旅行作家のかたわら生きていく上での物の見方を数々の著書や講演会などで伝え広め、多くの人たちの心を捉えてきた。花緑さんも感銘を受けたその一人だ。
「講演会に足を運んだことがきっかけでお付き合いをさせていただくようになったのですが、まず正観さんは表現の仕方が素晴らしいんです。難しいことを分かりやすく伝えていて、かと言って安っぽさもない。だからこそ、言葉や文章に力強さがあるんです。そこは噺家としてもすごく勉強にもなりましたね」

 花緑さんが考える、人生でもっとも大切なもの。それは「意識の持ち方」だという。
「すべてのことにありがとうと感謝の気持ちを伝えたり、周りの人が幸せを感じるように行動したり。そうした意識を持つことが大事だと思うんです。そしてこの本で、正観さんは『何事も実践することが大事だ』と言っています。理解していても、実践しなければ知らないのと同じ事だと。そうした考えにも、強いシンパシーを感じました」
 
 これまで自身の内面を掘り下げるために多くの本を読んできた花緑さん。曰く、「読書とはその作家と出会うこと」だそうだ。
「今公開中のシネマ落語も同じ。祖父の柳家小さんをはじめ、4人の師匠はすでに亡くなられていますが、映画館に行けば皆さんの気を感じることができる。つまり、これも出会いですよね」

 シネマ落語『落語研究会 昭和の名人』とは、昭和の名人たちの高座をスクリーンで蘇らせた人気シリーズだ。第四弾となる今回は五代目桂文枝など東西の巨匠が競演。
「“芸は人なり”という祖父の言葉がありますが、この映像には師匠たちの人格が凝縮されています。代々の名を継ぎながらも、自分の中から沸き起こる感性で型を打ち壊して勝負してきた、言わば型破りな方々ばかり。その高座を大画面で体感できるのは本当に素敵なことですよね」
 
 ちなみに、小さんの演目は『試し酒』。花緑さんが昨年から継承し、今もっとも力を入れて取り組んでいる噺でもある。
「これは祖父の代表作の一つで、お酒を飲む仕種や表情が実に素晴らしいんです。これこそ、スクリーンで見るにはうってつけの演目だと思いますよ」

柳家花緑さんが選んだ1冊
淡々と生きる』小林正観 風雲舎 1500円
学生時代から人間の潜在能力に興味を持ち、のちに人生論や幸福論についての講演を毎年300カ所以上で行ってきた小林正観氏。その彼の思考をまとめた最新作にして遺作。釈迦や空海、三蔵法師等の説法や宗教観を解き、時には自身の生活を例に出しながら幸せな人生を送るためのヒントを分かりやすく解説している。

取材・文=倉田モトキ
(ダ・ヴィンチ8月号「あの人と本の話」より)