「まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍」 【第14回】電子書籍はじまったな…“電子出版EXPO”突撃レポート

更新日:2013/8/14

電子書籍にまつわる疑問・質問を、電子書籍・ITに詳しいまつもとあつし先生がわかりやすく回答!
教えて、まつもと先生!

 

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まつもと :暑い…。

かべ :まつもとさん、お疲れさまです。今日は東京ビックサイトで7月3日~5日に開催された、第17回電子出版EXPOの会場からという体裁でお届けします。

まつもと :電子書籍元年と騒がれた2010年から3回目の取材なんですが、今回はその時を思い出させる盛り上がりでしたね。

かべ :専門展ということで、4日から開催されるブックフェアとは異なり、メディアや業界関係者のみが参加する場なのですが、TV取材も入っていたり、一般の新聞にも大きく取り上げられたりと、「電子書籍はじまったな…」という感が。なぜなんでしょう?

まつもと :いくつかポイントがありますが、EXPOを振り返りながら考えて行きましょうか。

 

打倒アマゾン? 基調講演にはキーマンが勢揃い

かべ :初日10時からの基調講演はすごい人手でしたね。

まつもと :丸善CHIホールディングスの小城社長、楽天の三木谷社長、講談社の野間社長、IDPFのビル・マッコイ事務局長という顔ぶれでしたからね。いろんな角度から関心を集めたと思います。主催者によると約2800人の来場者があったみたいですよ。

かべ :丸善グループは、電子書店hontoを運営し、ジュンク堂・丸善・文教堂とのポイントの共通化も図るなど積極的な動きを見せてますもんね。楽天は前回取り上げたようにKoboをいよいよスタートさせますし、講談社は紙の本と電子書籍の同時刊行を強化しています。

まつもと :お、さすがトピックスを押さえてますね。丸善CHIホールディングスは、大日本印刷の子会社、講談社の野間社長は2010年に設立された「電子書籍出版社協会」の代表理事でもあります。大手印刷会社傘下で書店や電子書店を運営する丸善、出版業界団体の代表、新たに電子書籍サービスを開始する国内最大手のeコマース企業――。

かべ :ただ、実はIDPFという団体がもうひとつピンと来ていません。

まつもと :IDPFはInternational Digital Publishing Forumの略で、いま注目を集めている電子書籍フォーマット「EPUB」の策定を行っている団体です。基調講演だけではその重要性が分かり難かったかも知れませんが、楽天のKoboをはじめ、ソニーのReader、アップルのiBooksが採用し、いま日本語対応も進んでいることで電子書籍普及の鍵を握る存在になっています。

かべ :なるほど、そういうことだったんですね。

まつもと :実はこの基調講演のあと、IDPFは午後丸々EPUB3コンファレンスを開いています。こちらも有料にも関わらず満員でしたね。技術的な話が長時間続きましたが、楽天やソニーのEPUB担当者からもその仕様について積極的な発言が相次ぎ、熱気にあふれていました。

かべ :基調講演の見所はどんなところでしたか?

まつもと :まずは、冒頭いきなり野間社長が楽天の三木谷社長からもらったという「打倒アマゾン」と書かれたTシャツを披露したところでしょう。

かべ :わっ。迷彩シャツに三木谷さんのこの笑顔…。

まつもと :前回も触れたように楽天のeコマース事業にとって、書籍からその扱い商品を拡大するアマゾンは巨大なライバルですから、電子書籍に限らず、といったところではあると思いますが、野間さんが掲げるとなかなか刺激的ですね。

かべ :やっぱり全体を通じて「対アマゾン(キンドル)」というトーンだったということになりますか?

まつもと :冒頭のこの一幕をのぞいては、名指しで批判するということはなく、どちらかというと、EPUB3とそれを採用するKoboによって有望な選択肢が生まれた、ということが強調されていたと思います。ここでも三木谷さんは出版社や書店とWIN-WINな関係を築き、電子書籍市場、ひいては読書文化を発展させていきたいと繰り返していたのも印象的でした。野間さんからは世界的にも「GAFMA(ガフマ)」への向き合い方が問われているとの話が紹介されました。

かべ :「がふま」?

まつもと Google、Amazon、Facebook、Microsoft、Appleの頭文字をとってこう呼びますね。巨大なプラットフォームであり、既存の流通システムのある種破壊者でもありながら、大きな顧客でもある彼らと、どのように付き合っていくか、という話ですね。

かべ :なるほど…。

まつもと :講演では具体的にどうするかについては突っ込んでは語られませんでしたが、例えば電子書籍の販売価格や取引条件において、楽天への出版社・流通の期待は大きなものがあるということは改めて感じさせられました。キンドルとの競争がいよいよ始まるなかで、その成否がどうなるか注目ですね。

かべ :ふむふむ、この連載でも追いかけていきましょう!

 

出展社からも注目の商品やサービスが目白押し

かべ :展示会場の方もおもしろかったです。人が多くて歩きにくかったけど!

まつもと :楽天のKoboも注目なのですが、会場で初お披露目となったBookLive!の専用リーダーは展示のみで実際に触ることができないにも関わらず、なかなか最前列に入れない人気ぶりでした。

かべ :やっぱりリーダーの展示があるブースは足を止める人が多かったですね。

まつもと :そうですね。実際には楽天のKoboやKindleはもちろん、ほとんどの電子書店が専用リーダーだけでなく、パソコンやスマホ・タブレットでも書籍を読めるんです。でも、専用リーダーには何か象徴的な意義があるんだな、ということを改めて感じます。

かべ :意義?

まつもと :電子書籍の実態は手に取ることのできないデジタルデータですが、やっぱり人はそこに「紙の本」のような手応えとか、印刷物に近い読みやすさ、とか特別な存在感を求めるということなのかもしれません。初期の自動車が馬車を模したつくりだったのに似ているかも。

かべ :なるほど。わたしも電子書籍といえば、やっぱりこの形の端末をイメージしちゃいます。

まつもと :徐々に電子書籍ならではの形に変化していくんだとは思いますけどね。

かべ :他に注目の展示はありましたか?

まつもと :基調講演でも「オープン」であることの重要性が繰り返し述べられていましたが、個人的に2010年からずっと注目しているものの1つが「オープン本棚」ですね。ちょっとこの画面を見てください。

かべ :本棚、ですね?

まつもと :DNPブースに展示されていた、まだβ版のものですが、さまざまな電子書店で購入した書籍をヴァーチャルな本棚に並べることができます。これを見て、iBooksなどとの違いが分かりますか?

かべ :んん…あ! 表紙じゃなくて背表紙で並んでますね。

まつもと :そうなんです。複数の本棚アプリを使い分ける煩雑さから解放されるだけでなく、実際の本棚のように並び替えたりすることができるんですね。その際、やはり背表紙で表示されていると良いんだな、ということがわかります。

かべ :でも、これどうやってるんですか? 書誌情報って表紙のデータしか持っていないような。電子ナビでも表紙で並べているのに…。

まつもと :なんと、書誌情報に含まれる本の大きさや表紙の色情報から自動生成しています。

かべ :へー!

まつもと :はやく実用化されて欲しいですね。あとは、このブースも人気でした。

かべ :あ! 左にいるのは津田大介さんですね。右は…ボイジャーの萩野正昭社長

まつもと :こちらもなかなか前に行けずに、こんな写真になっちゃいましたが、盛況でした。ヤフージャパンのブースで、EPUB3について断続的にセミナーが開かれていたんです。

かべ :ヤフーでEPUB3?

まつもと :7月から「Yahoo! ブックストア」が公開されたのですが、ブラウザで電子書籍を読むことができるボイジャーのBinBの技術を採用しました。

かべ :なるほど、それで萩野さんが座っているんですね。

まつもと :いままではパソコンでは専用のビューワをインストールしなければならないことが多かったのですが、HTML5に対応したブラウザであればスマホやタブレットでも電子書籍を読むことができます。書籍のデータは.bookやEPUB3に対応しているということです。

かべ :このブース自体が黒船をイメージしているというのもおもしろいなあと思いました!

まつもと :そうそう。今回もアマゾンは出展していませんが、基調講演をはじめ、その存在感は随所に現れていましたね。

かべ :ええと、死せる孔明、生ける仲達を走らす?

まつもと :いやまだ死んでませんから、これからやってきますから(笑)。

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■ダ・ヴィンチ電子ナビ編集部:d-davinci@mediafactory.co.jp

イラスト=みずたまりこ

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■第8回「ミリオンセラー『スティーブ・ジョブズ』 はこうして生まれた」
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