古典&最先端の笑いが共演!! 『狂宴御芸~狂言お笑い共宴~』にて、吉本興業が若手狂言師・野村太一郎さんのサポートを発表

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公開日:2021/2/18

狂宴御芸~狂言お笑い共宴~

 2021年1月30日、吉本興業主催の公演『狂宴御芸~狂言お笑い共宴~』が、東京・銀座の二十五世観世左近記念 観世能楽堂で行われた。

 令和3年目の幕開きを飾る本公演では、狂言、落語、漫才という、それぞれ違う時代に生まれ、独自の発展を遂げてきた3つの日本の伝統文化が一堂に会した。

京都フィルハーモニー室内合奏団
京都フィルハーモニー室内合奏団

 公演はまず、京都フィルハーモニー室内合奏団によるオープニング演奏でスタート。その後は、能楽堂の舞台に上がるにあたり、白足袋を履いた漫才師たち──中川家、ミルクボーイ、ミキの3組が、各々の芸を披露した。ミルクボーイの内海崇さんと駒場孝さんは、2方向に観客が入る能楽堂の舞台に立ち、「どこを見ればいいのか」と戸惑いを見せつつも、安定した漫才で能楽堂を沸かせた。

ミルクボーイ
ミルクボーイ

ミキ
ミキ

中川家
中川家

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 続いてのプログラムは、狂言『佐渡狐』。年貢を納めに都へと向かう佐渡の国と越後の国の百姓が道連れになり、「佐渡に狐はいない」と言う越後の男と、「佐渡にも狐はいる」と嘘をつく佐渡の男が、たがいの腰の刀を賭けることになるという演目だ。この演目のシテ(主役)・佐渡の百姓を、故・五世野村万之丞さんを父に持ち、現在は野村萬斎さんに師事する野村太一郎さんが、また、越後の百姓を野村裕基さんが、都の奏者を高野和憲さんが演じた。

佐渡狐
『佐渡狐』の一幕

野村太一郎
『佐渡狐』の一幕

 ふたたび京都フィルハーモニー室内合奏団の演奏を楽しんだあとは、落語家・桂文珍さんの落語が上演された。演目は、『商社殺油地獄』。石油産出国の王に日本の伝統芸能を披露することになった商社駐在員とその上司が、なんとか能狂言の真似事をしようと奮闘するのだが……というあらすじの、古典落語『能狂言』を意識した新作だ。作中で能狂言を演じる場面では、囃子に桂米左さん、林家うさぎさん、桂福矢さんを従えての熱演となった。

桂文珍
『商社殺油地獄』の一幕

桂文珍
『商社殺油地獄』の一幕

 次いで披露された狂言『蝸牛』は、主人から蝸牛(かたつむり)を捕ってくるよう命じられた太郎冠者(召使い)が、頭に黒い頭巾をかぶり、腰に法螺貝をつけ、藪の中で寝ていた山伏を、「頭は黒く、腰に貝をつけ、ときどき角を出し、藪にいる」と説明された蝸牛だと思い込むという筋書きの演目。山伏役の野村太一郎さん、主人役の岡聡史さん、太郎冠者役の内藤連さんが、囃子物に乗って賑々しく退場していく演出「浮かれ込み」まで、狂言のおもしろさを素直に体感できる演技で魅せた。

野村太一郎
『蝸牛』の一幕

蝸牛
『蝸牛』の一幕

 京都フィルハーモニー室内合奏団のエンディング演奏にて締めくくられた公演のあとには、野村太一郎さんの活動を吉本興業がサポートしていくことが発表され、今後の展望についての取材会が開催された。

狂宴御芸~狂言お笑い共宴~

 野村太一郎さんは、今回の公演について、「狂言はある程度以上には形を変えられないところがあり、昔から続いているままのものをお見せしましたが、落語は普遍的なテーマを扱いながらも、現代的なものを取り入れ、漫才はとくにタイムリーで、お客さんに寄り添うようなものができ上がっているという点に、笑いの成り立ちや形態の違いを感じました。今回の催しの特徴は、“話芸”でつながる伝統文化の共演。(狂言の)選曲も、言葉の掛け合いを楽しめる『佐渡狐』『蝸牛』としました。狂言の世界では、いろいろな芸能が同じ舞台で競い合うことを“立合(たちあい)”と言いますが、今日はまさに“話芸の立合”だなと」と語った。

 太一郎さんの意見には、桂文珍さんも「おっしゃるとおりですね」とうなずき、「実際にやってみると、おもしろい化学反応が起きますね。お能、狂言の世界は、今の時代とはテンポがずいぶん違います。しかしながら、効率主義とは相反する、日本人の肌に合う時間の流れの豊かさを感じられる芸能こそが、お能だったり、狂言だったりする。ことに狂言には、笑いのベースみたいなものがたくさん入っていますからね。参考にさせていただいています。(太一郎さんのような)お若い方が、我々といっぺん一緒にやってみましょう、なんていう気持ちを持ってくださるのは、本当にありがたいことですね。楽しみです」と期待を寄せた。

 また、今回、新たに吉本興業のサポートを受けることになった太一郎さんは、650年の歴史を持つ狂言の世界でも初となるこの試みに、「吉本興業様のさまざまなエンターテインメントへの着手に、私どもの狂言を含め、個人的な芸能活動がどのようにマッチしていくのかなと、一番に思っております。個人としては、新たな世界に旅立つというイメージでおりますし、吉本興業様の力をお借りして、能や狂言が新しい客層やいろいろな世界に発信していくこと、日本の伝統文化がさらなるエンターテインメントとして展開していくことを望んでおります」と抱負を述べた。

狂宴御芸~狂言お笑い共宴~

 そんな太一郎さんの意気込みに、落語界で新作と古典の両立を評価されてきた文珍さんも、「古典は、本当によくできたものが残っているわけですが、同じ時代を生きるお客様に『おもしろいなあ』と思っていただく入り口として、新作もとても大事。新しいものを作りつつ、古典もちゃんと継承していくというようなスタンスで、芸を支えるお若い方の、その世代のまわりのみなさんに応援していただけるようないい狂言が、新しく生まれることを祈ります」と激励。今後、吉本興業が狂言の世界をサポートしていくという動きについても、「吉本の扉は、あらゆる世界に向かって、いつでも開いています。ウェルカムです!」とコメントした。

 太一郎さんは、この公演に先駆け、狂言師・野村萬斎さん監修、野村太一郎さん主演・演出の『新作能「白雪姫」』DVDも一般発売している。ますます活躍の幅を広げる若手狂言師の今後に、おおいに注目したい。

取材・文=三田ゆき

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