ついに劇場版が公開!独創的なアイデアに支えられた、綾辻マジック横溢の傑作学園ホラー『Another』

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公開日:2012/8/6

劇場版『アナザー Another』、ついに公開!

 2009年に発表されるや、たちどころにベストセラーとなり、各方面で絶賛を浴びた綾辻行人『Another』が、マンガやTVアニメにつづきいよいよ実写映画に。『リング』・『着信アリ』シリーズを世に送り出し、一大ホラーブームを巻き起こした角川映画と東宝の強力タッグが、ふたたび全く新しいホラーを誕生させた。

 電子ナビでは、この劇場版公開を記念し、ダ・ヴィンチ第188号の綾辻行人インタビューをプレイバック掲載。本作品の誕生秘話をチェックした後は、ぜひ劇場に足を運んで欲しい。(映画公式サイト)

 

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――ダ・ヴィンチ第188号 「今月のBOOKMARK EX」より
 

 山間にひろがるのどかな地方都市・夜見山市。その地の公立中学・夜見山北中学校には、代々生徒たちのあいだで囁かれてきた、ひとつの怪談があった。

 26年前、不慮の死を遂げた3年3組の人気者ミサキ。その死にショックを受け、事実を受け入れることができなかったクラスメイトは、全員で「ミサキは生きている」というふりをしつづける。おりに触れミサキに話しかけ、一緒に遊び、下校する。そうした奇妙な行動は、卒業の日までつづけられたという。そして卒業式当日。撮影されたクラス集合写真の片隅には、そこにいるはずのないミサキが、蒼白い顔で笑っていた……。

 地方都市の公立中学校を舞台とした本作品は、ミサキにまつわる怪談とともに幕を開ける。どこかで聞いたことがあるようでいて、妙な薄気味の悪さを感じさせるこのエピソードは、読む者をたちまち夜見北中の薄暗がりへと引きずりこむだろう。と同時に、物語の重要なキーでもある。

 「いわゆる『学校の怪談』を描こうと最初から思っていたわけではないんですよ。作品の核になっているアイデアはかなり以前からあたためていました。自分の大好きな物語のパターンを、もうひとひねりしたものですね。じゃあ、どうすればそのアイデアを効果的に使うことができるのか。連載開始までかなり頭をひねりました。ある朝、シャワーを浴びていたらその解答が一気に浮かんできた。『ああ、これで長編にできるな』と。思いついた時には、我ながらやったな、という実感がありましたね」

 そこから必然的に舞台、時代設定、登場人物などが次々と決まっていった。ミサキにまつわる不気味な怪談も、この過程で生みだされたものだという。必然的に、というあたりがいかにも本格ミステリーの名手・綾辻さんらしい。

 メインアイデアについてここで詳しく説明することはできないが、ホラー長編を成立させる仕掛けとして相当に斬新なものであることは、断言しておこう。さまざまな断片が組み合わされ、恐怖の在処が明らかになったとき、きっと読者は感嘆の声を洩らすにちがいない。

 一方で、構想を練っている綾辻さんの念頭には、いつもある先行作品の存在があったという。恩田陸のデビュー作『六番目の小夜子』がそれである。

 「もちろんメインのアイデアは自分のなかから出てきたものですが、それを長編の形で書くとすれば、『六番目の小夜子』を意識しないわけにいかなかった。恩田陸さんの地方都市を舞台にした作品はどれも好きですが、特に『小夜子』は大好き。復刊のときに解説も書かせてもらっています。恩田さんとは違った形で、僕なりの『小夜子』が書けないだろうか、という思いが当初ありましたね」

 

起こりえない現象を描くために

 主人公の榊原恒一は父の仕事の都合で、中学3年の1年間を祖母の暮らす夜見山市で過ごすことになった。新学期から夜見北中3年3組に転入する予定だったが、気胸を患い、しばしの療養生活を余儀なくされてしまう。ある日、恒一は病院のエレベーターで、左目に眼帯をした制服姿の少女に出会った。メイと名乗ったその少女もまた、ミサキの怪談が伝えられる3年3組の生徒だった。やがて、クラスの関係者には、突然の死が次々と降りかかりはじめる──。

 「中学3年生を主人公にした、というのもあくまでメインアイデアから理詰めで考えていったものです。この話は小学生や高校生ではちょっと無理があるだろうな、と。これまで若い年齢層ばかり主人公にしてきたので、中学3年生を書いていてもそれほど違和感は感じなかったですね。以前発表した『最後の記憶』では、自分の原風景になっているものをノスタルジックに描くということをやったので、『Another』ではノスタルジーではなく、ほぼ現代を舞台にして普遍的な中学生の姿を描いてみたいと思った。今も昔も『中学生ってこういうものだよね』という部分はそれなりに描くことができたと思うのですが。いかにもおじさんが中学生を書きました、という感じになっていたら嫌だな(笑)」

 不思議な美少女・メイ。お調子者の勅使河原。その幼なじみで生真面目な風見。美術教師にほのかな憧れを抱く望月。そんな3年3組のクラスメイトたちと恒一の、微笑ましくもどこかぎこちない交流を、作者は繊細なタッチで描いてみせる。

 本作がとてつもなく怖い理由はここにある。学園青春小説としても優れているがゆえに、読者はおのずとキャラクターに同調し、その目や耳を通して、3年3組を襲う恐怖をまざまざと体感させられることになるのだ。

 「本格ミステリーの場合、どんなに奇怪な事件でも一応現実に起こる可能性があるでしょ。リアルじゃない、と言われてもある意味、反論のしようがある。でも『Another』で描かれる事件は、絶対に現実には起こりえない現象です。バカバカしいと思う人もいるかもしれない。それをどう書いたら、本を読んでいる間だけでも『ひょっとして起こるかもな』と感じさせることができるのか。その説得の部分に、かなり神経を使いましたね。絶対にありえないことなんだけど、リアルに怖がってもらいたい。ラストでは驚いてもらいたい。作品後半のさまざまなルールは、そうした要請から生まれてきたものです。怨念や祟りといった言葉で片付けるのではなく、ちゃんと『アナザー・システム』に則って現象が進んでゆき、キャラクターたちもそれに従う。その枠内で、最終的に読者を怖がらせ、欺き、びっくりさせたいと。この部分は本格ミステリーを書くのとまったく同じ思考法でした」