『鬼平犯科帳』に松本幸四郎、『仕掛人・藤枝梅安』に豊川悦司主演で映画化決定!「すこぶる興奮しております!」

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公開日:2021/3/16

豊川悦司・松本幸四郎

 作家・池波正太郎原作、テレビドラマシリーズとしても人気の『鬼平犯科帳』と『仕掛人・藤枝梅安』が映画化されることが決定、3月12日に都内で制作発表が行われた。5代目となる鬼平役は歌舞伎俳優の松本幸四郎、藤枝梅安役は豊川悦司が務める。

『鬼平犯科帳』は、「鬼の平蔵」こと火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)・長谷川平蔵が、江戸の街にはびこる悪党たちを容赦なく叩き潰していくストーリー。しかし、時には罪を犯した者にも人情や男気を見せる場面も。初代・長谷川平蔵には松本幸四郎の祖父・初代松本白鸚、4代目には叔父・中村吉右衛門が演じた。

 一方、『仕掛人・藤枝梅安』は、表向きは鍼医者を生業として庶民に慕われながら、裏の顔では金で殺しを請け負う仕掛人。“人を助け、人を殺める”、人の心や世の中の矛盾を象徴的に描いた作品である。歴代の梅安には、緒形拳や萬屋錦之介、渡辺謙に岸谷五朗ほか錚々たるメンバーが名を連ねている。

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松本幸四郎

鳥肌が立つ思いで喜び以上に驚いた

 今回主役を演じるにあたり、松本は「すこぶる興奮しております!」と開口一番に返答。『鬼平犯科帳』の江戸を、時代劇の職人芸でお見せしますと熱く語る。

 豊川は「とても、大きな大きなキャラクターを池波正太郎先生からお借りすることになりました。身が引き締まるどころか、身が縮こまる思い」と答えながらも、素晴らしい映画を届けたいと宣言。

 演じることへの思い、役が決まったときについて聞かれると、松本は「鳥肌が立つような思いでした。作品が傑作なのはもちろんのこと、錦之介さんや丹波(哲郎)さんといい、近い存在の方が演じられた作品でもあります。お話を頂いたときは、喜び以上に驚きました」と感動を隠せない様子。さらに「“やりたい!”という気持ちしかなかった、根拠の無い自信が即答させた」と意欲を見せた。

豊川悦司

 豊川は「驚きました。俺が梅安?どうして?って、自分の中でもすごくギャップがありました。子どもの頃、緒形拳さん演じる仕掛人を夢中で観ていて、怖いけれどカッコいい、僕の中でヒーローでした。そんな梅安の役を、まさか自分が演じることになるとは、正直すごく迷う部分もありました。でも、脚本の大森寿美男さんが書かれた素晴らしいシナリオを読み、監督は河毛俊作さんと聞き、これはもうやるしかないなって腹を括ったというか。チャレンジしがいがある仕事を、映画の神様がくれたんだなと思いました」と本音を覗かせる。発表を迎え安心したかという問いに「もう逃げられないな」と笑いを誘った。

新たな、進化した鬼平を作りたい

 2人の主役が舞台脇から花道を歩いてステージに登場する際、VTRで今までの役者たちが映しだされていた。どんな気持ちで歩いていたか尋ねられると、松本は、「幸せですね。それしかないですね」と即答。「5代目としてやらせていただくことにひたすら幸せ。代々の鬼平の歴史を通って新たな、進化した鬼平を作りたいと思います」と話す。

 現在、歌舞伎座で共演している吉右衛門に話が及び、「“ご報告”ということでお話しさせていただきました。頷かれたのが全てではないかと思います。家族にも言いましたが、出演することに対しては、“あ~”とか“え~”と、“あ”と“え”しか出てきませんでした。驚きでもあり、喜びでもあり、それを徐々に実感していくことになると思います」。

松本幸四郎

 豊川は、「僕が夢中になった『梅安』は緒形拳さんでしたが、緒形さんの顔に半分しか光が当たっておらずほぼ真っ黒で、人間の顔ってこういう風に見えるんだと感じた記憶があります。今回の梅安は、ダークヒーローという新しい言われ方もありますが、梅安というキャラクターを取り巻く光と闇、それがどの時代でも普遍的にエンターテインメントになっていくんだなという気がしています」と熱く語った。

梅安の両極端な行為に説得力がある

 続いて記者からの質問へ。梅安は過去錚々たる俳優陣が主演を務めているが、今回自ら梅安を演じる側にまわり、どんなところに魅力があるか聞かれると、豊川は「人は誰しもいくつもの顔を持っていると思います。たとえば僕なら俳優という顔、夫という顔、父親という顔、少なくとも3つは持っています。皆さんもそうだと思いますし梅安もその一人です。梅安の持っている2つの顔、善と悪という括り方をすれば、人を助ける・人を殺める、両極端な彼の行為に説得力があるのが梅安というキャラクターの面白いところかなと思いますね。やっていることは確かに良くないことかもしれないですが、彼の中で必要なバランスであるという。たとえば僕らがたまにはお父さんを休みたいな、サラリーマンの顔を休みたいな、そういう瞬間ってきっとあると思うんですよね。そういう意味で梅安の持っている人の距離感のようなものに、共感して魅力的に映っていくんじゃないでしょうか。演じるときにそこにたどり着ければ、池波先生が考えた梅安という男に近づけるんじゃないかなと思っています」と答えた。

豊川悦司

 コロナによってさまざまな変化がある中、今演じることについては、「コロナで映像や演劇の世界問わず、全ての世界が変わってしまったのかもしれませんが、それでもやっぱり僕らは働くし、ご飯も食べるし、朝を迎えます。今はこのような状態ですが、少しでも乗り越えつつあるというか、いい方向に進んでいるのではないか。時代劇にしても、個人的には時代劇の黄金期が再びくるのではないかと思います。世界的な映画の流行を見ても、未来を描くことから、少し過去の時代、昔の人たちが何を感じてどういう生き方をしていたかということを学ぼうとしています。コロナの影響もあるかもしれませんが、時代劇に描かれる、とてもシンプルで人情味あふれる人間たちの世界というのは、これからどんどん需要が出てくるのではと思っています」と時代劇への想いを語った。

 幸四郎は、「歌舞伎の舞台も半年以上開かない時期がありまして、昨年8月から再開されました。いろいろなお客様にご協力を頂きながら、上演している状態が続いています。舞台、芝居をしている人間としては、この状態で何ができるのかということを考えて、少しでも前進していくこと、元に戻るのではなく、変わっていくことが重要だと思います。また、時代劇、個人的には京都の撮影所は育てていただいた場所でもあり、常に恩返しをしたいと思っている場所。今回、鬼平犯科帳として、長谷川平蔵として伺えることは幸せな限りです。大きな大きなお土産を持って、恩返しをしたいと思っています」と決意を述べた。

描かれているのは善人でもあり悪人でもあり、人間ドラマ

 豊川は「京都で撮影すること自体が、僕にとってとてもワクワクすることです。映画の撮影は旅に似ているところがありますが、まさしくそこに行って撮影をする、旅をしにいくという感じがあって、そんなことは言われないんだけど“おいでやす”って言ってもらえているような気がして、エネルギーを貰っています」。

豊川悦司・松本幸四郎

 最後に意気込みについて、松本は、「鬼平犯科帳に描かれているのは善人でもあり悪人でもあり、人間ドラマだと思います。人と人が接しないと、何も情報を得ない時代に、人らしさというものを感じていただけるこの作品の温かさ、優しさ、そこに決断力や情報を持った長谷川平蔵の姿をお届けできるよう目指していきます」と述べる。

 豊川は、「僕自身がかつてそうであったように、子どもたちが今見て、怖いけどカッコいいなと言ってくれるようなヒーローを作っていきたいですね。伝統を踏まえながらも、新しい梅安を監督と一緒に作っていけたらと思います」と締めくくった。

『鬼平犯科帳』は杉田成道監督が指揮を執り、2024年5月に、『仕掛人・藤枝梅安』は河毛俊作監督が手掛け、2023年2月と5月に2作品公開を予定している。

取材・文・写真=松永怜

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