累計780万部突破! 脅威のファンタジーシリーズ「十二国記」の魅力

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/26

 ダ・ヴィンチ9月号では、累計発行部数780万部、という驚異的なセールスを誇るファンタジーシリーズ「十二国記」を大特集。
いまや国民的人気作となったこのシリーズ本編が産声をあげたのは、1992年のことだ。記念すべきシリーズ第1作『月の影 影の海』は、日本から見知らぬ異世界に飛ばされてしまった女子高生・陽子を主人公とした冒険ファンタジー。前年、新潮文庫より刊行されていたホラー長編『魔性の子』と共通の世界観をもつ作品だった。

メインターゲットである10代の少女にはちょっと難しすぎるのでは、という不安の声も一部にはあったというが、少女たちはこの魅力的な作品をしっかりと受けとめた。好評を受けて93年、第2作の『風の海 迷宮の岸』が刊行。背後に秘められた壮大で緻密な世界観が少しずつ明らかになってゆき、ファンの注目はさらに高まった。94年には『東の海神(わだつみ)西の滄海』、『風の万里 黎明の空』と力作が矢継ぎ早に登場。その噂はふだんティーンズノベルを読まない一般読者にもじわじわと伝わり、96年には評論家・北上次郎氏が『図南(となん)の翼』を週刊誌の書評コーナーで絶賛するなど、大きな広がりを見せてゆく。

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本読みのプロを唸らせる『十二国記』とはどんな作品なのか? そうした疑問に応えるように講談社文庫での刊行もスタート。大人の読者を夢中にさせる一方で、2002年にはNHK -BS2にてテレビアニメ版の放映も開始され、小学生など低年齢層のファンも急増。こうして「十二国記」はティーンズノベルという枠を飛び越え、あらゆる世代に愛される国民的シリーズに成長していったのである。

そして今年6月――。最新刊だった『華胥(かしょ)の幽夢(ゆめ)』から約11年の時を経て、ついに「十二国記」が動きだした。シリーズ全作品が「完全版」として新潮文庫より装いも新たに刊行されはじめたのだ。第1回配本のラインナップは『魔性の子』と『月の影 影の海』。カバーイラスト&本文挿絵は、もちろん山田章博さんによる新作描き下ろし。長年シリーズとともに歩んできた山田さんならではの、素晴らしいイラストを堪能できる。

担当編集者の鈴木真弓さんは、「十二国記シリーズは「“生きる勇気”の真髄を問う作品」だと語る。
「「十二国記」シリーズは、読むたびに胸が高鳴る作品です。十二国の壮大な仕組みの面白さはもちろん、各話ごとに異なる立場の視点を通して描かれる人間ドラマに、いつも心が震えます。物語の登場人物は皆、何らかの問題を抱えています。日本から異世界へ辿り着いた陽子をはじめ、王や麒麟も、官吏や民も、それぞれに違う葛藤がある。彼らは自分の弱さや醜さに直面しながら、困難を乗り越えていく術を学びます。善と悪、強さと弱さを併せ持つ、いわば我々と等身大の人間たちが懸命に人生に立ち向かっていく姿は、リアルでとても感動的。私たちの人生においても、社会や友人そして家族の間でも悩みは多くあるものです。読む時の年齢や立場の違いによって、対峙する問題は異なりますが、生きていく道程や幸せの在り方について、自身の現実に重ね合わせ考えることができます。そして年齢や地位の上下とは関係なく、「豊かな心」を持つという意味を教えられ、いつも背筋が伸びます。こうした点が、20余年にわたり世代を越えて支持されている理由ではないでしょうか」

完全版は順次刊行予定で、今年9月末には『風の海 迷宮の岸』の発売が決定している。その先には、雑誌掲載作品に書き下ろしを加えた新作短編集、そして待望の書き下ろし長編も控えているという。原点から最新作まですべてが揃う「完全版」は、以前からのファンにとっても、これまでシリーズに触れる機会のなかった人たちにとっても、最高の贈り物となることだろう。

取材・文=朝宮運河
(ダ・ヴィンチ9月号「全作ハズレなし!小野不由美を読む」より)