手塚、赤塚、石ノ森…神々が描いた「トキワ荘」の知られざる真実

マンガ・アニメ

2012/8/10

 手塚治虫を筆頭に、藤子不二雄、赤塚不二夫、石ノ森章太郎などといった“マンガ界の神々”ともいえる面々が住んでいた伝説の地「トキワ荘」。そのDNAは、大友克洋や江口寿史、泉昌之、岡崎京子といったニューウェーブ作家が出入りしたという「西荻トキワ荘」を生み出し、プロのマンガ家にシェアハウスを提供する「トキワ荘プロジェクト」などのシステムに引き継がれている。今も昔も、マンガ家をめざす者にとってトキワ荘は聖地。すでにアパート自体は取り壊されてしまったが、しかし、その真髄に触れることは可能だ。

 8月1日に発売された『まんがトキワ荘物語』(祥伝社)は、上記の神々たちがトキワ荘の思い出をマンガで綴った1冊。ここには、神々の知られざる素顔や、成功の裏に隠された苦労話が収められている。

 たとえば、手塚が描くエピソードには、藤子不二雄Aによるトキワ荘マンガ『まんが道』(中央公論新社)にも記されていない、手塚自身のトキワ荘での日常がしたためられている。手塚のマンガ執筆時の尋常ではない狂気は、「このマンガがすごい! 2012」男編第1位に選ばれた『ブラック・ジャック創作秘話 ~手塚治虫の仕事場から~』(吉本浩二、宮崎 克/秋田書店) に詳しいが、こちらは本人自らがカミングアウト。共同トイレがあるにも関わらず、窓を開けて2階から用を足したことなどが赤裸々に描かれている(藤子不二雄Aによれば、手塚はその後、窓の下に青カビがはえたと1階の住人から怒鳴られたらしい)。「やはり神様と呼ばれる人は行動も違う」と唸ってしまう逸話だ。

 ひときわ目を引くのは、赤塚不二夫のエピソード。夢を追い求めてトキワ荘に来たものの、仕事もなく金もない赤塚。共同の台所の洗い場を風呂代わりにしたり(石ノ森に見つかるが、なぜか彼も一緒に水浴びを始めてしまうというイイ話)、親友である石ノ森がギャグマンガへの入口をつくってくれたということが明かされたりなど、貧乏話から心温まる話までが描かれている。

 なかでも、マンガ家を辞めるかどうかを悩み、それをトキワ荘の兄貴的存在である“テラさん”こと寺田ヒロオに相談するシーンは感動的。赤塚はテラさんからマンガのアドバイスとともに「マンガ家になろうと思ってトキワ荘へきたんだろう? だったら最後までがんばれ」という言葉をもらい、悩みを吹っ切る。マンガ家として生きていく覚悟の持ち方だけでなく、テラさんの頼もしさや優しさが、この話には込められているのだ。

 ちなみにテラさんは、他のマンガ家のエピソードにも必ず登場する。いわば本書は、みんなのトキワ荘愛とともに、テラさんへの感謝、信頼、尊敬の思いも強く描かれているのである。まさしく、寺田ヒロオなくしてトキワ荘は成立しなかったのだろう。

 このほかにも、石ノ森が擬音やセリフが一切ないサイレントマンガで思い出を表現しているなど、見どころは満載。マンガファンならずとも、ぜひ手にとって読んでみてほしい1冊だ。