お疲れ気味の人に読んで欲しい 冲方丁の『もらい泣き』

文芸・カルチャー

2012/8/12

 9月15日に『天地明察』(角川書店)の映画公開も控えた希代のストーリーテラー冲方丁が、“泣ける本”を上梓した。8月3日に発売された『もらい泣き』(集英社)は「小説すばる」の人気連載3年分をまとめたもので、冲方がいろんな人々から話を聞き、そのいくつもの実話をもとに書いたものだ。

冲方はまえがきで、「人はどのようにして己の感情と和解するのか」。それを「自分の体験ではなく人の体験をもとに書きつづってみたい」と思い、「泣ける話」を選んだと述べている。そして、冲方が創作する上で最も重視しているという「描くべき人物への共感」を大切にしながら数十人から聞き集めた話を、丁寧に紡ぎ出したのがこの1冊だ。

“泣ける実話”を集めた本は数あれど、プロの小説家が文章化したものは珍しい。ただ「いい話だった」で終わるものではなく、読み終わったあとには必ず「明日からまた頑張ろう」という気持ちにさせられるのは、さすがだ。

東日本大震災の1カ月後に冲方が福島空港を訪れた際、車に乗せてくれた若者と、その父親の思い出を綴った「インドの豆腐」。「あの人がいればなんとかなる」と言われていた父の下で育った息子は、震災で困っている人のためにできる範囲の手助けをしている。「あの人がいればなんとかなる」と言われる人は、「なんとかしちゃう人」なのだ。そんな人が身近にいたら、自分にだって何かできる気がしてくる。

また、駅の掲示板に書かれた顔も名前も知らない人の自殺を示唆する書き込みに対して、たくさんの人がメッセージを書き加えた「先にいきます」には、1人の男性の命を救った人々の優しさが詰まっている。こんなふうに見ず知らずの自分にも、支えてくれる人がいる。そう思うと、また明日から頑張ろうと思えるのではないだろうか。

他にも知らなかった家族や友人の一面、夢を追い求めるきっかけとなった人や出来事など、あわせて33もの泣ける話が詰まっている。どれも心あたたまるエピソードばかりで、読んだあとには思わず涙がこぼれてしまう。また、書籍化するにあたって読者からもブログで「泣ける話」を募集していた。その中から選ばれた5本の話も掲載されている。

お疲れ気味の方はぜひ、たっぷり“もらい泣き”して、明日への活力をたくわえてほしい。