ダブル新刊発売! 小野不由美『鬼談百景』『残穢』を語る

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/26

幻の名作『ゴーストハント』全7巻の復刊、過去にNHK-BSにてアニメ化もされた『十二国記』完全版の刊行スタートと、最近ますます本好きの注目を集めている作家・小野不由美。その待望の新作『鬼談百景』(メディアファクトリー)、『残穢(ざんえ)』(角川書店)が2冊同時に発売された。ダ・ヴィンチ9月号では、小野不由美特集を行い、8ページにわたるロングインタビューを掲載している。

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鬼談百景』の原点は1990年代初頭。当時ティーンズ向けレーベルで「悪霊」(「ゴーストハント」シリーズ)を刊行していた小野さんは、「あとがき」において恐怖体験談を送ってほしいと読者に呼びかけたのだ。当時の読者からすぐに膨大な数の体験談が集まった。

それから約20年。小野さんは怪談専門誌『幽』誌上で、読者の体験談をもとにした作品の連載をはじめる。『鬼談百景』はその連載「鬼談草紙」を単行本化したものだ。

男女の銅像が建つ学校で、転落死や悲惨な事故があいつぐ「未来へ」、真夜中の学校での肝試しがおそろしい結果を引きおこす「増える階段」、投身自殺した男のすさまじい最期を描いた「マリオネット」――。収録された99話はいずれも粒よりの怪談ばかり。また、眠れなくなるほど怖い作品はもちろん、家族の絆を感じさせる「遺志」、奇妙なイメージが後を引く「透明猫」、ペット好きならじんとくること間違いなしの「跳ねる」など、さまざまな切り口の怪談も含まれている。

そして『残穢(ざんえ)』は、実に9年ぶりとなる待望の書き下ろし長編。物語の主人公は京都に住んでいる女性小説家だ。彼女のもとに「久保さん」という愛読者から一通の手紙が届くところから物語は始まる。
東京都内でライターとして働いている久保さんは、最近郊外の賃貸マンションに引っ越した。その部屋では夜な夜な、何かで畳を擦るような怪しい物音がするという。興味をもった小説家は、久保さんとメールや電話でやりとりを始め、怪現象の正体を探ってゆく。

作中には怪談作家の平山夢明、福澤徹三などが実名で登場、実在する新聞記事や判例、統計データなどが挿入されることで、これまでにない独特な世界を作りあげている。

自殺。孤独死。幽霊目撃談。次々と現れるいくつものパズルのピース。しかしそれらはなかなか一枚の絵にならない。あらゆる解釈を阻むような怪異の連鎖に、主人公は途方に暮れる――。
「怪談実話の幽霊って、何のために出てくるのかよく分からないですよね。ご先祖様の霊が『お墓を掃除してくれ』と訴えた、みたいな話もあるにはありますが、そう割りきれる話はむしろ少数派。大半は出てきた動機がほとんど分かりません。その不可解さが怪談の魅力ではあるんですが、彼らの側にどういう理屈があるんだろう、というのはずっと不思議でした」(小野)

日本人は古来、穢(けが)れに触れることを「触穢(そくえ)」と呼んで恐れてきた。「縁起でもない」という言葉に象徴されるように、21世紀の今日でもわたしたちの感覚を縛っている。『残穢(ざんえ)』はそうしたタブー意識に鋭く切り込んでゆく。
「祟りやお化けを信じていない人でも、『ついている』とか『縁起が悪い』という言葉には反応してしまうところがある。日本人は無宗教と言われることが多いけど、むしろ敬虔な民族なんじゃないかなと思うんです」(小野)

マンション周囲で起こっているのも、こうした死穢(しえ)の伝染なのか。平成から昭和のバブル期、高度成長期、戦後から戦前へとさかのぼる主人公の探索がどんな結末を迎えるのか、それはあなた自身の目でしかと確かめてみてほしい。

取材・文=朝宮運河
ダ・ヴィンチ9月号特集「全作ハズレなし! 小野不由美を読む」より)