神が許しても、私は許さない。小泉今日子主演の人気ドラマ『贖罪』DVDリリース記念! 黒沢清監督インタビュー

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2012/8/24

湊かなえ×小泉今日子×黒沢清による極限エンターテイメント

 ベストセラー作家・湊かなえの原作を小泉今日子をはじめとする豪華女優陣を主演に迎えて連続ドラマ化した『贖罪』。今年1~2月にWOWOWで放映されて大きな話題となった本作のDVDが待望のリリース! 監督・脚本を手がけた黒沢清監督に原作の魅力からドラマならではの見どころ、撮影の舞台裏を聞いた。
 

――湊かなえさんの原作を最初に読まれたときの印象はいかがでしか?

黒沢 次から次へとよくこれだけひどい人たちが書けるものだなぁ、と半ば呆れつつも楽しみました(笑)。もっとも惹かれた点は、人間が殺人に至るまで、その経緯がかなり細かく丁寧に、そして時に大胆に書かれていることでした。僕もこれまで映画の中で何度も殺人を扱ってきましたが、その多くは殺人が起きた後のドラマを描いたものだったので、逆にとても興味深かったし、この映像化は僕にとっても初めてのチャレンジになりましたね。

――原作では5人の女性による一人称の語りで物語が進んでいきますが、このような独白は映像化しづらかったのではないでしょうか。

黒沢 確かに一人称の語りというのは基本的に映像には向いていないものですが、描かれていないところに想像力を発揮して「こんな手紙を書く人は客観的にはこういう人物じゃないか」とか「こんなことを考えている人は社会の中でこんなふうに振る舞っているんじゃないか」というように自由に人物像を構築することができました。それを探っていくのが、苦労したところでもあり、一番面白かったところでもあります。原作者の湊かなえさんも自由にやっていいと大らかに認めてくださったので、こちらのアイデアを活かせるやりがいのある作業になりました。

――第3話で加瀬亮さんが演じた役は原作だとかなり鬼畜な変態ですが、ドラマでは雰囲気を匂わせるだけではっきりとは描いていませんでしたね。

黒沢 加瀬さんの役だけでなく、第1話の森山未來さんの役もそうなのですが、語り手が主観的に感じたほど彼らが邪悪な人間なのか、視点を変えて客観的に見たら違うかもしれないということと、これは僕のやり方なのですが、どれだけ邪悪な役であろうとカメラを向けているときは、その人物の魅力を撮りたいと思うんです。それで、結果的に人物に違いが出てきました。役者にしてもどこか共感できる部分がないと演じることができないと思います。あそこまで容赦なく一方的に人間の邪悪なところを描ける小説は、それはそれですごいと思いますけれど。

――語り手の側にもいろいろオリジナルな脚色がされていますね。

黒沢 僕の好みもありましたし、それぞれに理由はあるのですが、大きなところでは、ある人物がそれまでの日常と違う地点に踏み出すという思い切った行動に出るとき、心の中の葛藤や決意に至る経緯だけではない外的な要因、本人が意識していなかった別の要素をいろいろ付け加えていった結果として出来上がっていったという感じです。

――楳図かずおさんが原作の『蟲たちの家』を映像化した際は「原作のイメージを最初に頭に叩きこんで、それ以降は原作を一切開かなかった」そうですが、今回はどうだったのでしょう?

黒沢 同じですね。脚本を書く前に2~3回しっかり読み込み、書いている途中にも何度か開くことはありましたが、脚本ができてからは一切開いていません。できることなら脚本すら撮影が始まったら開きたくないぐらいなんです。脚本に沿って映像を作っていくことが、僕の仕事の基本的な流れなのですが、映像を作っているときは、僕の目の前にあるもの、それが今初めてそこに誕生したかのように撮りたい。「これは脚本通りだな」とか「これは原作のあのシーンだな」なんていうことをいちいち思い出してしまうと、撮る気力も楽しみもかなり失われてしまいますから。

 

1話1話余韻を感じながら見て欲しい

――最終話はとくに原作を離れてかなりオリジナル度の高いストーリーになっていますね。

黒沢 他の4人があそこまで追い詰められたわけですから、主人公の麻子にも同じところまで行ってもらいたいという思いがあったんです。極限まで追い込まれ、それをどう乗り越えるのかということで彼女の贖罪が決定づけられる。これは最初に原作を読んだときから、僕ならこうしたいと思っていたことでした。

――香川照之さんの演じた南條という男の不気味で圧倒的な存在感も原作にはないものでした。

黒沢 南條は原作だと「フリースクールを経営している」ということ以外にまったく情報がないんです。だから、その一言を手がかりに思い切ったキャラクターを作ってみようと。

――2人が対峙する終盤のクライマックスシーンは圧巻でした。

黒沢 実はあのシーンは脚本とはまったく違う展開になっているんです。当初の脚本ではあんなに激しいシーンになる予定ではなかったんですが、最初に2人がフリースクールで出会うシーンを撮影してみると南條のキャラクターの強烈さが想像以上で、再会したときの2人の行動も大きく変わっていきました。こういうことが映像を作る面白さで、現場で起こる反応によってさまざまに変わってくるんですね。

――黒沢監督は以前、「自分は女優の演出に作家性を見出していない」という発言をされていましたが、今回蒼井優さん、小池栄子さん、安藤サクラさん、池脇千鶴さんという、まさに旬な若手女優陣を演出してみていかがでしたか?

黒沢 小泉今日子さんが素晴らしい女優であることは『トウキョウソナタ』で一緒に仕事させてもらってわかっていたのですが、他の4人の方々も本当にすごいなぁと。単純にうまいというだけじゃなく、存在感がある。誤解を恐れずに言えば、同世代の男優よりも圧倒的にすごいと思うぐらいです。これだけ存在感のある女優って海外でもそんなに多くないですよ。今回のそれぞれの役を自由に、そして個性的に演じてくれた彼女たちを見て、日本映画もまだ捨てたものじゃないと思いましたね。

――では、最後にDVDのリリースを待っている方々に一言お願いします。

黒沢 連続ドラマとして週に1回ずつ観ていただくように作ったので、DVDも一気に5話見るのではなく、1話1話余韻を感じながら見てもらえると嬉しいですね。1話観たら次は次の日というように観れば最低でも5日はこのドラマを味わえるので。ぜひゆっくり楽しんでください。

(黒沢清監督プロフィール)
くろさわ・きよし●1955年兵庫県出身。立教大学在学中から8ミリ映画の自主製作・公開を手がけ、83年『神田川淫乱戦争』で商業映画デビュー。主な作品に『CURE』『ニンゲン合格』『カリスマ』『回路』『アカルイミライ』『トウキョウソナタ』など。

取材・文=橋富政彦

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『贖罪』DVDコレクターズBOX【初回生産限定】

8月24日発売(同日レンタル開始)
20世紀 フォックス ホーム エンターテイメント / 3枚組 ¥8,990(税込)

<収録エピソード>
【Disc-1】■第1話「フランス人形」■第2話「PTA臨時総会」
【Disc-2】■第3話「くまの兄妹」■第4話「とつきとおか」【Disc-3】■最終話「償い」 
<特典映像>
【Disc-3】●メイキング・オブ・『贖罪』●インタビュー集

▼ 原作もあわせて読んでディープに楽しもう! ▼

紙贖罪 (双葉文庫)

湊かなえ / 双葉社 / 650円

15年前、静かな田舎町でひとりの女児が殺害された。直前まで一緒に遊んでいた四人の女の子は、犯人と思われる男と言葉を交わしていたものの、なぜか顔が思い出せず、事件は迷宮入りとなる。娘を喪った母親は彼女たちに言ったーあなたたちを絶対に許さない。必ず犯人を見つけなさい。それができないのなら、わたしが納得できる償いをしなさい、と。十字架を背負わされたまま成長した四人に降りかかる、悲劇の連鎖の結末は!?特別収録:黒沢清監督インタビュー。

紙贖罪 (ミステリ・フロンティア)

湊かなえ / 東京創元社 / 1,470円

取り柄と言えるのはきれいな空気、夕方六時には「グリーンスリーブス」のメロディ。そんな穏やかな田舎町で起きた、惨たらしい美少女殺害事件。犯人と目される男の顔をどうしても思い出せない四人の少女たちに投げつけられた激情の言葉が、彼女たちの運命を大きく狂わせることになるーこれで約束は、果たせたことになるのでしょうか?衝撃のベストセラー『告白』の著者が、悲劇の連鎖の中で「罪」と「贖罪」の意味を問う、迫真の連作ミステリ。本屋大賞受賞後第一作。