人間 伊藤沙莉の生態「ポンコツ人生」前編/伊藤沙莉『【さり】ではなく【さいり】です。』

小説・エッセイ

更新日:2021/6/7

6月10日に発売される、女優・伊藤沙莉さんの初のフォトエッセイ『【さり】ではなく【さいり】です。』。発売に先駆けて、本書からエッセイ「ポンコツ人生」を前後編でお楽しみください。

「ポンコツ人生」前編

人間 伊藤沙莉の生態を一言で表すなら
ポンコツである。

サバサバしてる、とか
ハッキリしてる、とか
テキパキしてる、とか
声のせいなのかそういうイメージを
抱いて頂くことが何故かとても多いのだが
とんでもない。

なんなら真逆である。

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人見知りなのもあってただ単に喋れなかった現場では
まさかの「クールなんですね」
といったご感想まで頂いたことがあるのだが
私を含め、私を知ってる身内の人間たちからしたら
「んなわけあるかい案件」だ。

 

「どんくさいお調子者のポンコツ人間」

これでやっと全員納得のはずだ。

 

家族からはよく、
変な子、不思議な子、意味不明、二重人格、アリみたい
そんな感じで言われていた。
アリみたいに関しては未だに
何故なの?以外の感想が浮かばないが
そういう印象だったみたいだ。

 

みんながみんな、自分にとっての普通の中で生きている。
例に漏れず私もそうだ。
なので皆の言ってることはむしろこちらが不思議。
といった感じだ。

ただポンコツだったら大納得。
なので軽くポンコツたる所以をご紹介したいと思う。

 

幼稚園の時の私はとにかく手癖が悪かった。
もちろん悪事を働いている自覚なんぞ微塵もない。
今でも似たところはあるのだが
興味があるものが目の前にあると
それ以外を全てシャットダウンしてしまうところがある。
もちろん他に興味の湧くものが目の前にきたら
そちらに移動してまたシャットダウン。
視野が極狭なんだと思う。

幼稚園には魅力的なおもちゃが沢山あった。
そして持ち帰っちゃ怒られていた。
スーパーではDr.スランプアラレちゃんのとても可愛いノートがあって
頼んでも買ってもらえない気がしたのか
一枚拝借。秒で現行犯逮捕だった。

そんなある日。
今思い出しても本当に意味不明なのだが
自分より小さい子の制服が
ミニスカートみたいで可愛く見えたんだと思う。
いつの間にかはいてた。
で、今の私が悪魔の囁きアドバイスをするのであれば
自分のを置いていきな
って感じなんだけど
自分のもちゃっかりカバンにしまって
園を後にしようとした。

その子はパンツ姿で号泣。
そりゃそう。
トイレから戻ったらないんだもん。
スカートが。
ちょうどおむかえにきていた伯母は
日頃の行いからなんとなくピンときたのか
速攻持ち物検査開始。秒で発見。秒で脱がされた。
伯母と共に平謝りした後、
シンプルに交番に連れてかれた。
5歳にして前科者だ。
車で泣き叫ぶ私に伯母は
「逮捕だよ?! いいの?! 牢屋生活です!」
と今思えば笑っちゃうようなお説教を結構な時間してきた。
それ以来、私の窃盗癖は直った。
伯母には感謝が止まらない。

後編に続く>