21世紀版「時をかける少女」!? 筒井康隆がラノベデビュー

マンガ

更新日:2012/8/16

 筒井康隆といえば、説明するまでもない文学界の巨匠。『時をかける少女』や『七瀬ふたたび』、『日本以外全部沈没』など、数々の名作が繰り返し映像化されるなど、その人気は今なお現在進行形だ。そんな筒井が次に挑むのは、ライトノベル。読者も作者も若いことで知られるライトノベル業界で、77歳の筒井はどんな作品を見せてくれるのか?

  8月17日に発売される『ビアンカ・オーバースタディ』(講談社)は、自他共に認める絶世の美女・ビアンカ北町の好奇心が巻き起こすどたばたギャグコメディだ。実験大好きのビアンカは、生殖実験のため彼女に心酔している後輩から精子を提供してもらう。それでも彼女の好奇心はとどまることを知らず、同じ生物研究部の唯一の部員で先輩でもある千原忠信にまで精子の提供をお願いし、彼らの精子を戦わせたりするのだ。こんな女子高生がいたら、男子の諸君はどうなってしまうのか?

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 筒井渾身のラノベだが、ページを開くと章タイトルは「哀しみのスペルマ」に「歓びのスペルマ」、「怒りのスペルマ」とスペルマづくし。……これはAV? と不安になってしまうほどで、喜寿を迎える大文豪とは思えないハジケっぷり。SF要素あり、スラップスティックあり、のまさに筒井節全開の作品となっている。70代の筒井に10代、20代をターゲットにしたラノベが書けるのだろうかと少々不安に思う読者もいたかもしれないが、そんな心配はご無用だ。

 そもそもラノベ作家には筒井の作品に影響を受けた30代の作者が多く、「ブギーポップ」シリーズで有名な上遠野浩平や「ソードワールド」シリーズを手がける山本弘も影響を受けているという。そう考えると本家がようやく登場したようなもので、筒井がラノベデビューするのもある意味必然だったのかもしれない。

 そして、この作品には筒井の代表作のひとつである『時をかける少女』に通じるものもある。
実は、たった1人の生物研究部員で先輩の千原は未来人なのだ。そして、彼がタイムスリップしてきた理由は未来で巨大カマキリが増殖したから!? 『時をかける少女』の深町一夫もラベンダーを採取するためにタイムスリップしてきたが、そんな理由で危険を冒してしまうところも筒井流。しかも、ビアンカが千原を未来人だと思った決定的な理由は、彼の精子の数が少なく元気もなかったから!? 『時をかける少女』や既存のラノベとも違う新しい筒井ワールドが展開されている。

 イラストは筒井じきじきにいとうのいぢへ依頼。朝比奈みくるのようなかわいいい妹も登場しているようなので、そのあたりにも要注目。さらに、筒井の頭の中には「ビアンカ・オーバーステップ」という続編のアイディアもあるそう。ぜひ、その続きも書いていただきたいものだ。