関西で有名マンガ家の教える大学が増加中

社会

更新日:2012/8/17

 マンガを習得する学科やコースを設置する大学が増えている。大学でマンガを学んでプロになれるのか? そもそも何を教え、学んでいるのか? 『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』(文藝春秋)などで知られるフリーライター北尾トロが、雑誌ダ・ヴィンチでの連載にてその実情に迫っている。

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――不思議なのだ。マンガ家って大学で勉強してなるものなのか? 4年間費やしてどんな勉強をするのか? 教室で机を並べて勉強するマンガなんて、どうもピンとこないのである。
 
古いのかもしれないが、私のイメージは手塚治虫を慕うマンガ家の卵が住み着いて切磋琢磨したときわ荘や、マンガ雑誌の新人賞に応募して採用され、デビューを飾るステップ。全国各地に散らばるマンガ家の卵が、才能と個人の努力で大輪を咲かせる感じなんだなあ。

 我々は『マンガ産業論』(筑摩書房)の著者である中野晴行さんを頼ることにした。マンガに精通し、デジタルハリウッド大学や京都精華大学の客員教授として学生に教えている人だ。まず知りたいのはマンガに力を入れる大学が増えているかどうかである。
「明らかに増加傾向ですね。京都造形芸術大学は去年からマンガ学科を新設しましたし、大阪芸術大学はキャラクター造形学科を作りました」 

 他にも、宝塚大学にはマンガコース、東京工芸大学にはマンガ学科がある。栃木県の文星芸術大学にもマンガ専攻が誕生し、教授には巨匠ちばてつやが! また、名古屋造形大学マンガコースの指導陣には浦沢直樹、長崎尚志の名コンビが参加。さらに、2014年度には大阪総合漫画芸術工科大学が開校する計画まであるというから盛り上がってる。大学でマンガ、これから花盛りの気配なのだ。
「特徴的なのは、東京ではなく関西がムーブメントの中心となっていることです」

 マンガ教育のメッカは、70年代からこの分野の先頭を走り、京都市と共同で京都国際マンガミュージアムを設立した京都精華大学を抱える関西圏。京都の本気ぶりは、昔ながらの町家をマンガ家たちに利用してもらい、現代の“ときわ荘”にしようとするプロジェクトを進めていることでも明白だ。これで大阪総合漫画芸術工科大学が誕生したら、関西の優位は当分揺るがない。
「マンガ界にとってはいいことですが、これは若者の流出を防ごうとする苦肉の策でもあるんです。何か特徴を出そうと、大学がマンガを取り入れ始めたんですね。デザイン系の学校が、なんとかして学生を集めようとしてマンガ学科を作る傾向があります」

 中野さんは、これからも地方の大学があとに続くだろうと予想する。ちょっと安易な面もあるが、悪いことばかりではない。必然的にベテランのマンガ家に需要ができ、後進を育てる仕事に携われるからだ。自然、技術の継承が行われるとともに、刺激を受けたベテランが新境地を開拓するきっかけともなりうる。

 マンガを産業として考えると、アジアからの留学生の存在も大きい。韓国、中国、タイ、シンガポール。ベトナムやインドからも日本にマンガを学びにくる。
「中でも韓国の学生は優秀で真剣。帰国後はマンガの教育者になる人もいます。こうした積み重ねがマンガの国際的なマーケットを大きくすることにつながっていくのだと私は考えます」

 ダ・ヴィンチ9月号本誌では講義内容や卒業生の気になる進路などを、ルポ形式でたっぷりお届けしている。

取材・文=北尾トロ 
ダ・ヴィンチ9月号「走れ! トロイカ学習帳」より)