人気マンガ家が講義! 京都精華大学マンガ学部に潜入

社会

2012/8/20

 近年、マンガを学べる大学が増加している。しかしマンガとは学問として学べるものなのか? 学んだ先にはなにがあるのか? そんな素朴な疑問に応えるべく、『裁判長! ここは懲役4年でどうすか』(文藝春秋)などで知られるフリーライター北尾トロが、ダ・ヴィンチ連載記事にて取材を敢行。同連載のマンガ・イラストを描く日高トモキチが非常勤講師を務める、京都精華大学マンガ学部の授業に潜入した。

――午後の京都精華大学キャンパスは静かで学生の姿もまばら。芸術学部があるせいか、美大のような雰囲気が漂っていた。マンガクラスが設けられたのは1973年と早く、2006年にマンガ学部として独立。現在は大学院にもマンガ研究科を開設。いまや精華大と言えばマンガという印象が強くなっている。

 90分の講義を終え、この日は4名の学生と話をした。地元の京都出身者は1名で、あとは大阪、長野、茨城とバラバラ。学生たちのレベルの高さを話題にすると、ついていけない者は3年になる前に学校に来なくなったという。同級生でバリバリやっているのは半分ぐらいでは、ということだった。マンガ学部はプロ志向。遊び半分で入学した学生は、カリキュラムが進むにつれて居場所がなくなるのだ。プロになるために必要な要素は多々ある。絵がうまいだけでは自慢にもならず、物語の構成力、魅力的なキャラクター造形など、個性も総合力も求められる。

 といって、それが一定のレベルに達すれば済む話でもないわけで。マンガ家志望者は大学以外にもごろごろいて、虎視眈々とデビューを狙っているのだ。この競争率の高さあってこそのマンガ産業なんだが生半可じゃないね。この日の4人にしても、全員がプロのマンガ家になれるわけでも、なろうとしているわけでもない。3年生にもなれば卒業後の進路も考えなければならず、冷静に、現実的に、自分の実力や意思を見極める時期に直面する。4名のうち、あくまでマンガ家にこだわるのは1名だけ。残る3名はストーリーマンガへのこだわりがさほどでもないせいもあって、アニメ制作会社への就職、知識と経験を活かした図書館司書、一般企業の企画職など、現実に目を向けた将来設計を始めているようだ。

 翌日もキャンパスを訪問し、ひさうちみちおさん、さそうあきらさんらが普通に構内を歩いているのを目撃して興奮した後、70名の学生がマンガを描く大教室に潜入してみた。私語もなく、全員の手が忙しく動いている。これがまた、私みたいな素人から見たら全員がマンガ家に見えてしまうほどうまいんだ。こんな国がどこにある、日本のマンガはすごいだろと自慢したくなってしまう。

 私がいいなと思ったのは、教える側が持っている現役感だ。ここの先生たちは教えるだけの人ではなくマンガ家なのである。机上の空論はここにはなく、程よい緊張感が教室を支配している。まぁ専門教育とはそういうものかもしれない。理系の大学にも共通する空気があるだろう。でも、マンガという特殊なジャンルでそれができていることには素直に驚いてしまった。

 あとは誰もが憧れる売れっ子作家が大学から出てくるようになるかどうかだ。そうなれば、投稿や持ち込みに並ぶマンガ家への道として大学進学がクローズアップされることになるのではないか。

 東京に戻る新幹線でツイッターの呟きを見ていたら、京都精華大学教授の竹熊健太郎さんが、来年度の同大学客員教授に、みうらじゅん、東村アキコ、山田章博の各氏が決定したとツイートしていた。現役バリバリ感、一段とアップ。近い将来、マンガ教育に熱心な大学間で、教え上手なマンガ家の争奪戦が起きるかもしれない。そしてそれは、個人の才能と努力で生きてきたであろう彼らに、後進を育てるという新たなやりがいを与えることにもつながっていくのだろう。

 本誌では実際にマンガを学べる大学はどこなのか、その意義とはなにかを専門家に聞くほか、北尾自身も教壇に立ち、実際の授業の様子などを伝えている。

取材・文=北尾トロ 
ダ・ヴィンチ9月号「走れ! トロイカ学習帳」より)