2012年芥川賞作家・鹿島田真希がBLを書いていた

BL

2012/8/21

 『冥土めぐり』(河出書房新社)で2012年上半期の芥川賞を受賞した鹿島田真希。『文藝春秋』に掲載された選評でも、「鹿島田さんにしか描けない世界」(小川洋子)、「受賞にふさわしい一作」(堀江敏幸)、「圧倒された」(山田詠美)と賛辞の言葉が並んだ。また、三島賞、野間文芸新人賞、そしてこの芥川賞で“新人賞3冠”を達成。いま、純文学界を背負って立つ、頼もしい作家のひとりといえよう。しかし、そんな鹿島田の作品に、かなり濃厚なBLがあるのだという。

 その作品は、2007年に発表され、第29回野間文芸新人賞を受賞した『ピカルディーの三度』(講談社)だ。
主人公の「おれ」は、音大受験を目指す高校2年生。受験科目のひとつである和声を学ぶために、作曲家の「先生」のもとへ通うことに……という物語なのだが、まず、2人きりのレッスン中に、先生が気になって仕方がない「おれ」の描写を見ていただいたい。

【先生の額には汗が滴っている。暑さのせいだろう。だけどおれには先生が罰を受けているように見える。生徒に和声を教えるという拷問。(中略)先生が苦しんでいる。可哀想。また、可哀想。だけど愛らしい。先生、おれがいなければこんな罰はなかったね、おれは嫌な子だね。】

 「おれ」の無邪気な愛情表現や、先生への従順さ。「おれは嫌な子だね」という胸のつぶやきがなんともかわいいではないか。しかし、一方の「先生」はSキャラ! とくに「おれ」が先生に愛を告白するシーンの切り替えしは、Sの魅力が凝縮された萌え度だ。 

【「おれ、やっぱり先生のことが好きです。愛してるって表現してもいい。なんて言ったらいいのか、よくわからないけれど、とにかく言葉にしたい。先生が好きです」
先生はふーうとため息をつくと、「やり直し」と呟いた。】

 ここまではソフトなBL部分を引用してきたが、実はこの作品、ハードな描写がたっぷり。なんと「先生」は、スカトロ行為を要求するのである……! 

 もっと恋人同士のように接したい、肉体の関係も結びたい、だけど叶わない――渦巻く欲望に「おれ」は葛藤し、“聖と俗”“肉体と言葉”などについて思索を巡らせていく。名づけるならば、まさしく“哲学的BL”なのだ。

 鹿島田がロシア正教の洗礼を受けていることは、本人がインタビューなどでも答えていることだが、彼女の多くの作品には、独特の宗教性が共通して流れている。この作品でも宗教的な禁忌の感覚が、ポルノとは一線を画す崇高さを生み出し、魅力となっているのだ。

 重厚で濃密な『ピカルディーの三度』における背徳感。「普通のBLには飽きてきた」という方には、ぜひおすすめしたい小説だ。