塩谷瞬には「まだ灰皿は飛んできてない」、蜷川幸雄の伝説

芸能

2012/8/22

 現在、舞台『トロイラスとクレシダ』が上演中の演出家・蜷川幸雄。最近は実娘である蜷川実花が監督して注目を集めているが、父もまだまだ元気。先日行われた公開舞台稽古の会見でも、二股騒動で話題を振りまいた塩谷瞬に蹴りを入れるなど、“鬼の蜷川”ぶりを見せつけた。

 蜷川といえば、有名なのが「稽古中に灰皿を投げつける」という逸話だ。前出の会見では、塩谷は「まだ灰皿は飛んできてない」と語っていたが、実は、最近は投げないのだという。

 その理由を明かしているのが、改訂の上、7月10日に文庫化された『演出術』(筑摩書房)である。本書によると、灰皿を投げるなどの怒りを昔のように爆発させないのは、「やってしまうと、俳優との関係を修復するのが大変」というのが理由だ。しかし、その強烈な演技指導によって演技力を磨いた役者が多いのも事実である。

 たとえば、常連組のひとりである藤原竜也の場合、『近代能楽集~弱法師~』に出演した際に「かなり細かくダメ出しをしました」と本書の中で蜷川が述べている。「死と裏返しに、倒錯したエロティシズムがくっついている」という三島由紀夫の世界を描くためだというが、その難しい要求は、デビュー時から鍛えてきた藤原への信頼が篤い証拠でもあるだろう。

 一方、「もうちょっと俺が若かったらな、この人たちと世界制覇だな」と思ったという俳優として、唐沢寿明と大竹しのぶの名を挙げている。唐沢に対しては、「演技の乾きぐあいだとか、思い入れのなさとか、切り替えていく速度」を称賛。ヨーロッパ演劇や歌舞伎にコンプレックスがない“新しい世代”の登場を、心から喜んでいるようだ。

 また、俳優の可能性を伸ばすために、「若手のタレントを育てるようにしています」と話す蜷川。「小栗旬だって初めから売れたわけじゃない。ちょっと目をつけてたのを引っ張り出して『お気に召すまま』や『ハムレット』に出てもらったり、成宮寛貴も『ハムレット』のフォーティンブラスで出てもらったりしてデビューしてるわけですからね」と、ちょっぴり“ドヤ顔”な発言も。彼らの才能にいち早く気付いて抜擢してきた蜷川の、面目躍如といったところか。

 俳優論はもちろん、これまで手がけてきた作品へ込めた思いなど、演出家としての蜷川の実態に迫ったこの本。ちなみに、藤原や小栗、成宮をはじめ、蒼井優、長谷川博巳、松たか子といった“俳優から見た蜷川”が語られている『蜷川幸雄の稽古場から』(ポプラ社)も併せて読めば、より楽しめるはずだ。