一般人が紙の本に触れられない時代がやってくる!?

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2012/8/28

 1990年頃から専用の小型端末機が発売されていたが、ここ最近のスマートフォンやiPadの普及によって、ぐっと身近なものになってきた電子書籍。しかし、今よりもっと電子書籍が普及し、電子書籍の方が紙の本よりも一般的になってしまったら……?

 小説『サエズリ図書館のワルツさん』(紅玉いづき、sime/講談社)はそんな未来の図書館のお話だ。舞台となるサエズリ図書館は私立の図書館で、その代表であり“特別探索司書”を務めるワルツさんこと割津唯を中心に、そこで出会った人々が本にまつわる物語を繰り広げる。

 この時代の紙の本は、本来なら博物館で保管・管理されるような高価で貴重なもの。その価値は、ワルツさんの父で脳外科医でもあったワルツ教授が手術代として本をもらい受けていたことからもわかるだろう。

 いちおう学校には図書室もあるが、そこにある本はすべて標本のように1冊ずつケースに入れられており、教師が手袋をつけて扱うようなもの。専門書や記念物以外で新たに図書が出版されることは極めて珍しいことになっており、ニュースが配信されるほど。さらに、国会図書館ですら一般人が立ち入れない状況になっているため、人々が本に触れる機会はほとんどなくなってしまった。そんな貴重な図書を守るために配備されているのが特別探索司書。彼らには本に埋め込まれたマイクロチップを読み込み、管理したり位置情報へアクセスできる特別な権限が与えられている。本がみんなのものであった時代は終わり、敷居が高く、好事家や金持ちの道楽となってしまっているのだ。

 紙の本好き読者にとっては、ちょっぴり寂しい気持ちにさせられる未来の姿だが……。

 しかし、こんなふうに本や図書館に対する人々の見方、考え方は変わってしまっても、本を愛する人の存在までもがなくなってしまうわけではない。OLの上緒さんは、初めて図書館を訪れたのに嗅ぎ慣れない紙とインク、糊の香りになぜか懐かしさを覚える。本の手触りやしおりになる紐、インクの染みなど、馴染みのないそれらひとつひとつに戸惑いながらも徐々に心惹かれていくのだ。毎日のように図書館へ足を運ぶ老人もいれば、自分の子供に本を贈りたいと願う人もいる。本を愛する人がいる限り、本や図書館は決して死なない。電子書籍が普及した世界でも、紙の本は紙の本だけの魅力を持ちつづける……。この小説の描く未来は、そのことを改めて感じさせてくれる。

 『サエズリ図書館のワルツさん』を読めばきっと本が読みたくなるはずだ。そんなみなさんにワルツさんからの一言を贈ろう。「よい読書を」。