特集番外編1 2012年10月号

特集番外編1

更新日:2013/8/7

なぜ今、村上春樹特集か?

編集M

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ダ・ヴィンチですが、特集会議を2か月に一回頻度で行っています。そこで次に担当したい、やってみたい希望の特集の企画書を編集者全員で提出するのですが、ある日、なぜか私とK(26歳)が「村上春樹さんの特集がやりたい」との企画を偶然、揃って、提出しました。
実はこの半年、私は「男と本。」や「京都で、本を」、Kは「ジョジョ特集」「次にくるマンガランキング」などをメインで担当してきました。いつもキャッキャと夏フェスの話ばっかりしているような、そんな2人です。ですから「‥‥‥なんで?」とほかの編集部員が「?」になった瞬間でした。「なぜ今(若いお前たちがそろって)、村上春樹?」

『海辺のカフカ』が発売された当時、弊誌は「拝啓、村上春樹様」という特集を発売しました。今号は以来約10年ぶりの特集となります。
なぜ私は今、村上春樹さんの特集企画案を出したのか?
東日本大震災後、私はずっと無力感に苛まされていました。中学生の頃、地元で阪神・淡路大震災を経験したのにも関わらず、今の東日本大震災後の無力感のほうが大きかったのです。また、世の中のいろいろな事象の流れに諦めを抱いていたように思います。
そのとき、『海辺のカフカ』を読み返しました。大衝撃を受けました。
その後文庫版の『1Q84』を貪るように読み、そこからは編集部にある小説を読み尽くしました。「小説って面白いだけじゃない、それ以上のものを与えるんだ」と改めて気づきました。同じく若い読者に向けてもっと村上春樹作品を読んで欲しいと思いました。そして「若い人に向け、いまこそ、村上春樹を読むべきだ」というその理由を、特集内できちんと探ろうと思いました。

本特集ではこれまで村上春樹さんの作品に触れたことのない読者に向けて、ストーリーグラビア企画と題し、綾野剛さん、新井浩文さん、早見あかりさんにご登場いただき、『1Q84』『ねじまき鳥クロニクル』『スプートニクの恋人』の世界観をビジュアルで表現するという大胆な企画を敢行しました。さらに引用文までも掲載させていただきました。

そして、「村上春樹メールインタビュー」を掲載させて頂きました。
私とKが今、感じていること、考え、思い、そして今、本当にお聞きしたいことを素直に、すべてを晒けだして、質問を考え(実は村上春樹さんにお願いした当初の質問文、めちゃくちゃ長かったんです。すみませんでした)、そんな若輩者の編集者の問いにも関わらず、ひとつひとつ丁寧に、そして力のあるお答えをくださいました。
「よくこんなことを村上春樹さんに聞けたねえ」と上司に笑われてしまった質問も多数ありました。私たちは真面目に素直に、直球にお聴きしていたのですが(汗)、それに関しても、とても的確に、お答え下さっております。大変恐縮です。ぜひ読んでみてください。
あ、ちなみにKは7キロ太ったままです! 体重計乗れ!

本特集を読んでいただいた読者の皆様、ぜひこれを機に小説を読み直してください。今、読むと、また違う感想を抱かれると思います。また今まで作品を読まれたことのない方、ぜひ一度触れてみてください。きっと自分の中の何か、が変わります。

最後に。村上春樹様、今回の特集をご了承いただき、ありがとうございました。重ねて御礼申し上げます。

追伸:
インタビュー記事内にございますが、取材でご協力いただきましたASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さんが編集長を勤められる「未来について考える新聞」「TheFutureTimes」 、ぜひ読者の皆様にもご覧になって欲しいと思います。私も今後も新聞拝見させていただきます。

村上春樹さんインタビュー秘話

編集K

 

編集Kです。普段はマンガの記事を担当してばかりの私ですが、何を隠そう、村上春樹さんの大ファンです。
高校時代に文庫『ねじまき鳥クロニクル』を手にとって以来、インタビュー記事も含めて村上さんが発した言葉に、可能な限り触れてきました。
私がこんなに執拗にストーキングさせて頂いた作家は、村上春樹さんを置いて他にいないかもしれません。

その一方で、私と同年代(20~30代)の人たちは思ったほど村上さんの作品を読んでいないなぁ、と感じていました。
今回一緒に特集を担当した編集M(30代)と話していたのが、30代は村上さん作品を“食わず嫌い”しており、20代は“娯楽のone of them”として捉えているのではないか、ということです。
30代は村上春樹さんに熱狂していた上の世代への反発から、言うなれば“ハルキアレルギー”をもっている。
20代はネットを中心に氾濫するジャンクな娯楽に親しんでいて “費用対効果”という意識が強く、読むのに時間がかかる小説にはなかなか出番が回ってこないのではないか、と。

しかし村上さんの作品は娯楽という枠を遙かにこえて、皆に読んでほしいものです。
村上さんの書いた作品は、例えそれが20年以上前に書かれたものであっても全く古さを感じさせず、むしろ読み返す度に新しい発見(=生きるためのヒント)をもたらしてくれます。それが若い世代にこそ読んで欲しいと思う理由です。この辺りは特集の冒頭に書いています。

一回ハマれば追い続けてしまうのも村上さんの特徴で、思うに、村上さんの作品には刺さる時期、瞬間というのがあって(それがいつくるかはわからない)、それを経験すると作品をずーっと読み続けることになるのだと思います(Mも今年に入って『海辺のカフカ』を再読し、今更ながら一気にハマった、と言っていました)。

今回特集を企画してから最初にしたことは、村上さんご本人への企画の確認と、インタビューをさせて頂けないかというお願いでした。私がどんな人間で、なぜいま村上春樹さんの特集をしたいと思っているのかについて手紙に書き、先輩の編集者に託して、村上さんからの返事を待ちました。
そしてなんと、メールインタビューを受けて頂けることになったのです!

その後、Mと一緒に実際に掲載された量の数倍はある、膨大な量の質問文を作成し、何度も推敲した後に、送付。
後日、それに対する村上さんの回答文が弊誌に届きました。

まだ誰の眼にも触れていない春樹さんの言葉がここにある。
本当に感動しました。

こんなこと村上春樹さんに聞くか!?と言われても仕方のない、不躾な質問にも丁寧に答え下さっていて(恐縮です……)、ファンならずとも必見のメールインタビューになっていると思います。
村上さん、本当にありがとうございました!

ほか特集の記事ですが、芸能系はMが担当し、私は文字もののページをシコシコと進めました。
特集の後半では内田樹さんや宇野常寛さんらにご登場頂き、村上春樹ワールドの奥深さをたっぷりとお届けしています。なかでも宇野さんの「googleと戦える作家」という切り口は非常に面白く、是非インタビュー記事を読んでみて下さい。