「役者じゃなきゃだめなんです」 綾野剛が語る“自分”と“孤独”

芸能

更新日:2012/9/7

 作家・村上春樹の特集号となる『ダ・ヴィンチ』10月号の表紙を飾るのは、NHK朝ドラ『カーネーション』の周防、ドラマ『Mother』の“虐待男”浦上などを演じ、瞬く間に旬の役者となった綾野剛。特集内でも、『1Q84』の主人公・天吾を演じたグラビアを撮り下ろしており、同号はまさに綾野づくしとなっている。

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 クールで、寡黙。役柄からうける、綾野剛のイメージは、たぶんこうだ。だが、目の前にいる彼は、エネルギッシュで、饒舌。決して「おしゃべり」なわけではない。自分が感じたことを正確に伝えるために、妥協をしないだけだ。
「誠実に、人とちゃんと向き合って会話したいから、言葉は尽くしたい。たまに、より伝わるのなら不協和音でもいいかなと思って、わざとチューニングを大きく変えることもありますね」

 言葉に対して鋭い感覚を持つ綾野だが、意外にも読書体験は多くないのだという。今回選んだ中村文則『』は、「人生で2冊目の小説です」。普通の大学生が、突然手に入れた銃の魅力にとりつかれていく話だ。
「3年くらい前、僕に合うと思うと送ってくださった方がいて。冒頭で『何だこれ』と思いました」

 手元にある本を開くと、冒頭の一節をさらりと読みあげた。
(昨日、私は拳銃を拾った。あるいは盗んだのかもしれないが、私にはよくわからない。これ程美しく、手に持ちやすいものを、私は他に知らない。)
「この文章だけでものすごいことがいっぱい書かれてる。銃って、持ち方を教わらないのに、必ず“あのように”持てるじゃないですか。それは銃の側に“こう持て”という魔力があると思うんです。この世界を、この感情を僕は知っていると思いました。おこがましい言い方ですが、自分の中にある感覚が描かれていると感じられました。中村さんと初めてお会いした時の中村さんの第一声が、『うわ……いる!』だったんです。主人公の西川が本当にいると思った、と。嬉しかったです」
以来、綾野と中村は親しい友人関係を続けているという。

 『』文庫版の帯には、綾野のコメントが掲載されている。
(孤独は向かってくるのではない 帰ってくるのだ)
「やっぱり『孤独は向かってくるのではない 孤独は帰ってくるのだ』と『孤独』という言葉をもう一度入れたほうがいい。より客観的な“コピー”になる。読者がこの世界に没頭しやすい環境づくりをしたいから、『僕』を排除したかったんですが……前のバージョンだと、僕が出てしまってますね」

 「自分」を排除する――それは、役を演じるうえで、綾野が常に心がけていることだ。
「自分が邪魔でしょうがない。ただ役だけの存在になりたいんですよ。若い頃は、自分、自分でした。周りに影響されないように必死で。今は、どんどん影響を受けたい。全部取り込んで、役に使おうと思っている。受け入れる強さというものがあることを知りました」

 10月には『新しい靴を買わなくちゃ』、11月には『その夜の侍』と出演映画の公開が連続して控えている。どちらの映画でも、画面に綾野が登場すると、「この男」がどんな人物なのかが瞬間的に伝わってくる。
「この空間の中で、この役としてどう生きるかを大事にしたい。だからセリフに対して『俺だったらこうは思わないな』なんて感情は全く持たない。セリフが、絶対的な正解なんですよ。まず受け入れて、自分の中にそのセリフを言うために必要な感情を探します」

 役者という仕事に、貪欲だ。
「役者じゃなきゃ、だめなんです。生きていると実感できる場所はここにしかない。不安もありますけど、その不安が生きる糧になっている。リラックスした状態で生きてたって、僕は楽しくないです」
 不敵な色が、瞳に映った。

取材・文=門倉紫麻
ダ・ヴィンチ10月号「STUDIO INTERVIEW」より)