涼宮ハルヒ、エヴァとの意外な共通点――キャラ小説としての村上春樹

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/26

今や世界に誇る日本の国民的作家・村上春樹の作品と、大人気ライトノベル「涼宮ハルヒ」シリーズとを並べて、ジャンルの垣根を越えて論じた『ハルキとハルヒ』(土居豊/著)。現代日本文学界の2大巨頭である両作品を、阪神間やキャラクター、3.11といった切り口から両者の共通点について考察した意欲作だ。

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『ダ・ヴィンチ』10月号の村上春樹特集では、その意外な共通点をさぐるとともに、涼宮ハルヒは、村上春樹キャラにたとえたら誰? など、“キャラクター小説”としての村上春樹作品を分析。土居氏にもインタビューを行っている。

――僕がこの『ハルキとハルヒ』を書こうと思ったのは映画『涼宮ハルヒの消失』を観て、村上春樹の作品と近いものを感じたからなんです。以前から「ハルキとハルヒ」は文体や、パラレルワールド的な設定が似ている、という指摘はずっとされてきたんですが、それは谷川流の年齢を考えれば当然で、いまの40代近くの作家はみな村上春樹の影響を受けている。ライトノベルの元をたどれば朝日ソノラマだったり、『時をかける少女』のような学園SFものの系譜と、村上春樹からの流れがあり、これは設定の類似性の説明にもなります。ただその中でもなぜ村上春樹と谷川流に強いリンクを感じたのか。じつは彼らはともに阪神間の出身で、中高時代を関西で過ごしている。だから『国境の南、太陽の西』や『ノルウェイの森』などティーンエイジャーを描いた作品と「涼宮ハルヒ」の空気感は驚くほど似た部分がある。

またキャラクター設定にも近い部分があって、村上作品の主人公の「目標を見いだせず煮え切らない感じ」というのは「涼宮ハルヒ」のキョンだし、そこに非日常的なものが介入してきて現実がゆらいでいくという構図もすごく似ている。大体その原因が女の子で、要するに恋愛がらみの非日常が訪れるというのもそっくりです(笑)。

女性キャラでいえば例えばツンデレヒロインの涼宮ハルヒと村上春樹作品のヒロインはかなり近い部分があるし、長門有希のような無口電波系、鶴屋さんみたいな元気系も村上作品には登場します。

そもそも小説の世界にキャラの概念を持ち込んだのは村上春樹でしょう。村上龍にせよ全共闘世代までの作家たちはキャラクターというものを描いてこなかった。ところが『風の歌を聴け』なんて、新人賞の応募作であるにもかかわらず自分でイラストをつけるということをやっていたわけですし、その後も佐々木マキとタッグを組んで羊男と双子を描いた絵本『羊男のクリスマス』を出したりと、キャラというものについてかなり自覚的に取り組んでいたのではないでしょうか。

『1Q84』なんかはライトノベルっぽい、などと言われますけど、むしろ小説における「エヴァンゲリオン」なんじゃないかと。自分なりの解釈を展開しやすい小説で、ゲーム的な謎解きが楽しめます。『ねじまき鳥クロニクル』なんかもそうで、あの時は謎解き本が山ほど出ましたよね。最近、小説の世界でそういう読まれ方がされるものってほとんどなくなっていて、最後に残るのは村上春樹と涼宮ハルヒなんだと思います。

ダ・ヴィンチ10月号「いまこそ、村上春樹」特集より)