北方謙三が20代男子に喝! 現代における「男」の生き方とは

暮らし

2012/9/20

 やれコミュニケーション能力が低い、野心がないと攻撃されがちな20代男子。
そんな彼らから「漢(おとこ)が漢に惚れるというのを初めて経験しました」とコメントが寄せられる北方謙三“大水滸伝”。北方“大水滸伝”の男たちこそ、本当の「漢」の姿なのだ。『水滸伝』(全19巻)『楊令伝』(全15巻)は文庫版だけで合わせて累計660万部を超えるメガヒット作。『ダ・ヴィンチ』10月号では、『楊令伝』文庫版完結を記念して著者・北方謙三にインタビューを行った。

 「『水滸伝』にも原典はあるんだけど、そのままではあまり面白くない(笑)。とくに後半、一束いくらみたいな感じで登場人物がどんどん死んでいくことに違和感があった。日本人の感覚からすれば、戦いに敗れることや、死んでいくことの意味をもっと掘り下げたい。だから、『水滸伝』を書くにあたって、負けるということを小説で思うまま書いてやろうと思った」

 『水滸伝』は時の政権に反旗を翻し、「梁山泊」という要塞を築いた108人の豪傑の物語。北方さんは『水滸伝』を換骨奪胎し、革命を夢見る男たちの波瀾万丈な物語として書き上げた。『楊令伝』はその続編にあたり、梁山泊の生き残りであり、次代を担うことを期待されていた楊令が主人公だ。
「『水滸伝』が“敗れるとはどういうことか”を書こうとした物語なら、『楊令伝』は“負けた後にどうするか”を書いた物語。宋が大きすぎて倒せないなら、自分たちの国を造ろうとしてもいいんじゃないか。それが楊令の構想として表れてくる」

 北方さんから見て、いまの若者たちはどのように見えているのだろうか。
「俺らの頃よりもはるかに厳しい時代に生きていると思うね。だから、もし、上の世代に何か言われたら“いまの時代がどういう時代かわかってるのか!”と認識させないと。それくらいしないと頭を抑えられっぱなしだよ。
 俺らの頃はいまがどんな時代かなんてよくわからないまま生きているのが普通だった。社会に対して暴れれば何かが見えてくると思っていた。でも、いまの若者たちはまず情報を入れてから行動する。だから、むやみやたらなパワーが出てこないんでしょう。とはいえ、いつの時代も若者は世の中の変革を願っていると思う。表に出てこないだけで、エネルギーはあるはずだ」

 たしかに大震災後のボランティアや原発問題で積極的に活動している若者たちは元気だ。しかし、その一方で、正社員になれない、キャリアが築けないなど自分の将来に不安を持ちながら生きている人が大勢いる。
「でもね。理不尽は人生の真実の一つ。『水滸伝』や『楊令伝』で書いているのも、理不尽のなかで潰えていく名もなき人々なんだ。いつの時代も世の中は理不尽なものなんだと思えば、膝を屈することはない。理不尽に対してどれだけ戦えたかが人生の価値なんだから。
 派遣社員だろうとなんだろうと、仕事があるならそこから始めればいい。一芸に秀でて、“正社員になってください、ほかに行ってもらったら困ります”と言われるくらいになれよ、と思う。“それでも俺は派遣社員でいます”と言えれば、派遣社員の意味が変わってくる。自分がいまいる立場の意味を変える努力をすべきで、それをしないで嘆いているだけでは何も変わらない」

 北方さんはそう言ってから、ボソっと「俺が言っていることって実際にやるのは難しいことかな」とつぶやいた。
「でも、何もこの世の中で一人しかできないことをやれって言ってるんじゃない。一万人か二万人しかできないことでいいんだ」

 誰もが主役になれるわけではない。しかし、自分の信じる道を歩めれば、それはすばらしい人生だ。北方“大水滸伝”に登場するきら星のごとき“漢(おとこ)”たちは、そう教えてくれる。

取材・文=タカザワケンジ
(ダ・ヴィンチ10月号「文庫ダ・ヴィンチ」より)