WBCにイスラエル代表が出場する理由

スポーツ

公開日:2012/9/20

 スッタモンダの末に、日本代表の出場が決まった第3回ワールド・ベースボール・クラシック(以下WBC)。本質的なものから表層的なものまで問題はいろいろあるが、とりあえずは、日本代表の三連覇の可能性は残った。

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 で、その第3回WBC、9月19日から早速、予選ラウンドが始まった。日本は前回成績の結果、予選免除になっているが、予選参加国を見ると聞き慣れない国名が……。それはWBC初出場となるイスラエル。世界的に見るとサッカーに比べて野球は普及エリアが限られているが、なかでも中東は野球がマイナーなエリア。そんな野球不毛の地にあるイスラエルがなぜWBCに?

 実はこれには、イスラエルという国の背景と、MLB(メジャーリーグ)の世界戦略が関係している。国の背景の説明は簡単だ。イスラエルは第二次世界大戦後に建国されたユダヤ人国家。建国後、イスラエルに移民してきたユダヤ系の人々のなかには、アメリカなど野球が盛んな国から渡ってきた人もいる。そのなか、またはその子孫の中には野球好きな人々も存在するのである。こうした一部の熱狂的な人々が中心になって、実は2007年、イスラエルでは中東初のプロ野球リーグも誕生している。とはいえイスラエルの野球人口は5000人にも満たない程度。レベルもそう高くない。さらにイスラエルには兵役もあるため、チーム構成、選手層を安定させる目的もあり、結果的に各球団とも北米、中南米から野球をする場を求めてやってきた選手が中心であった。余談だが、現在、中日に所属するマキシモ・ネルソンは、この年、イスラエルでプレー。また日本人選手も1人、プレーしていた。

 そして、このイスラエル・リーグを後押ししていたのが実はMLB。『メジャーリーグ なぜ「儲かる」』(岡田 功/集英社)など、MLBをビジネスという側面からとらえた各書でも触れられているが、MLBにとって、野球の国際化はビジネス・チャンスの拡大。北京五輪前後から中国での野球普及も模索するなど、近年のMLBは世界進出に積極的である。イスラエル・リーグへの協力も、その流れのなかにあるといっていい。つまり、たとえばメキシコのプロ野球リーグのように、いずれMLBとは独立した組織ながら、実際はMLB傘下のマイナーリーグに相当するようなシステムにする構想ももっていたようである。

 しかし、イスラエル・リーグは資金難もあって2007年限りで休止。今のところ再開のメドはたっていない。それでもイスラエルの野球好きたちは、リーグ戦はダメでもWBCには出たいと粘り強く活動。MLBにとってはWBCも世界進出の手のひとつ。代表チームさえ編成できれば参加国の増加は歓迎というスタンスであることもあって、今回の初出場が叶ったのだ。

 では実際にイスラエル代表は予選ラウンドを勝ち抜けるか、となるとそこは良くも悪くも未知数だ。イスラエル野球についてまとめた『エレツ・ボール』(ココデ出版)の著者・石原豊一さんは次のように語る。
「イスラエル代表チームはアメリカに住むユダヤ系の大学生、マイナーリーガーが中心になるようです。代表選手の選考会をアメリカでも行っていましたからね。純粋にイスラエルで生まれ育った選手の割合はかなり少なくなるでしょう」

 つまり、イスラエルという国のレベル自体は高くないが、選手はアメリカの野球選手たち、相手次第では結果的に勝ってしまう可能性もゼロではない、ということである。ちなみにメンバーにはかつて巨人に所属していたゲーブ・キャプラーやメジャー通算328本塁打を記録したショーン・グリーンなどユダヤ系アメリカ人の元メジャーリーガーも加わるという。彼らは引退した選手だが、イスラエル代表としては十分な戦力だろう。

 実は2011年にMLBで3割30本30盗塁を記録したライアン・ブラウン(ブルワーズ)、ダルビッシュ有の同僚として日本でも知名度が上がっているイアン・キンズラー(レンジャース)、今季、シーズン途中に電撃移籍をした強打者ケビン・ユーキリス(ホワイトソックス)など現在のMLBのスターの中にもユダヤ系の選手は複数存在する。特にユーキリスはWBC本選であればイスラエル代表に名を連ねてもいいという意志を表明。将来的なイスラエルでの野球の普及、人気アップ、リーグ再開のためにも、関係者は参加を待ち望んでいるという。

 果たしてイスラエル代表は予選で奇跡を起こし、まさかの本選出場を達成することができるか? そうなれば本選で日本と対戦する可能性も出てくるがだけに、ちょっと注目してみたい。