没後20周年! 松本清張作品が毎年映像化されるワケ

文芸・カルチャー

2012/9/28

 作家生活四十余年、その作品は長編、短編ほかあわせて千編にも及ぶ松本清張。今年は没後20周年にあたり、3作品がドラマ化されている。4月には『市長死す』、6月には『波の塔』、そして9月30日(日)には渡部篤郎と長谷川京子主演で『危険な斜面』がフジテレビで放送予定だ。

“没後20周年記念”とはいうものの、実は清張作品は、今年に限らず1957年からの55年間、毎年欠かさず(!)何らかの作品が映像化されている。さらに、『危険な斜面』は過去7回も映像化されている作品。すでに今年のドラマ放映は終わったが、『波の塔』は9回(映画含む)、『市長死す』は2回映像化されている。『砂の器』『ゼロの焦点』『点と線』といった代表作だけでなく、このように繰り返し映像化したくなる作品が多い理由とは何なのだろう。

『危険な斜面』は、自身の出世のために社長の愛人となった過去の恋人を利用した男の黒い計画を描いた、1959年発表の短編小説。男の出世欲が生み出した巧妙な完全犯罪が暴かれるまでが、最後まで予想できない展開で読み手を夢中にさせた。氏の作品は社会派推理小説と名付けられるように、事件の背景に社会的問題が描かれていることが特徴。ただし、根底にあるのは人間の欲望の対象となる財産や名声、出世、また貧困や差別、障害など、いつの時代にも普遍的なテーマである。ゆえに時代を選ばないところや、その時代ごとの解釈を入れられるということが、作り手にとっても映像化する際の魅力といえるだろう。

例えば、2009年に公開された『ゼロの焦点』の映画版。メインテーマは原作同様、人間の普遍的心理ともいえる「社会的地位の保身と向上」だった。ただ、その一方で、殺人の動機については、原作では「戦争によって狂わされた人生がやっと豊かになったのに、それが失われそうになったとき、殺人を犯す」というものだったのに対し、「夢や未来のためにしたこと」に変更され、それが現代における説得力を増すためだったと監督の犬童一心は当時インタビューで語っている。

ちなみに『波の塔』『市長死す』など、男女の恋愛、愛憎劇も多く描かれている。しかし決して下品ではなく、格調高い表現であること、ミステリー文学の古典として知名度抜群、ファンの年齢層が幅広いことも、松本清張作品の人気の理由だろう。

巧みな物語構成、さらには独自の解釈が可能な余白とテーマの普遍性。松本清張作品が愛され続ける理由は、その器の大きさといえるかもしれない。観客・視聴者にとって、また映像化にチャレンジしたい作り手にとって、常に更新されつづける作品として。