ピース又吉、綾野剛がどハマリしてる作家とは?

芸能

更新日:2012/10/1

 存在感が文学的とも評される役者・綾野剛が「衝撃を受けた」と言い、いまもっとも多くの人から信用を受ける“書評家”であるピース又吉も「僕が生きる糧にしている作家」とさえ語ってしまう。――この旬なふたりから熱烈なラブコールを投げかけられているのが、作家の中村文則だ。

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 中村は、現在35歳。2002年に『』で第34回新潮新人文学賞を受賞しデビューして以来、『遮光』で野間文芸新人賞、『土の中の子供』で芥川賞、『掏摸(スリ)』で大江健三郎賞を受賞するなど、着実に純文学として評価を高めてきた作家だ。果たして、綾野と又吉を魅了する作品世界の魅力とは、どんなものなのだろうか?

 綾野の場合は、『』(新潮社:単行本、文庫、河出書房新社:文庫)を読んで一躍ファンに。その後、プライベートで初対面し、『別冊+act.』(ワニブックス)vol.7では対談を行っている。そのなかで『銃』について、「あれを読んだ時、人生半分を損したなと思いました。(中略)活字って……こんなに美しいものだったっけと思って」と大絶賛。

 又吉もまた、『銃』が大好きであるらしく、著書の書評集『第2図書係補佐』(幻冬舎)でも『銃』をピックアップ。「この小説を僕は他人事ではないような気持ちで読んだ。真ん中から心をえぐられた。僕にとって特別な一冊だ」と綴っている。

 『銃』は、又吉のレビューを引用すると「平凡な大学生として日常を過ごしていた男が「銃」を拾い、それによって精神に変化をきたし日常から逸れて行く」という物語。ものに執着する心理と、人が抱え持つ暴力性がえぐりとられた、直球の純文学だ。『銃』の文庫版では、綾野と又吉がふたり揃って帯文を寄稿。「孤独は向かってくるのではない 帰ってくるのだ」(綾野)、「衝撃でした。より一層、僕が文学を好きになる契機になった小説」(又吉)と、その愛を言葉にしている。

 さらに、この一作にとどまらず、又吉は09年のベスト小説として『掏摸(スリ)』(河出書房新社)をチョイス。『遮光』(新潮社)が文庫化された際もブログで「決して明るい小説では無く深刻な内容なのだけれど、そういう小説が救いになっている僕のような人も沢山いて、中村文則さんは、そんな僕達にとってかけがえのない特別な作家なのだ」と記している。

 又吉も書いているように、たしかに中村作品のテーマは暗いものが多いのが特徴。なかには純文学ということもあり、ハードルが高いと感じている人もいるかもしれない。だが、たとえば『掏摸(スリ)』は、天才スリ師が主人公でエンタテインメント性も十分な内容だし、死刑制度を真正面から描いた『何もかも憂鬱な夜に』(集英社)も、「生きることとは?」「人間とは?」という普遍的なテーマをあらためて考えるきっかけを与えてくれるはず(文庫版の解説は又吉が担当)。また、9月21日には初のショートストーリー集『惑いの森~50ストーリーズ~』(イースト・プレス)を発表したばかりなので、短編ならば初心者も入りやすいはずだ。

 ちなみに、綾野は中村本人とはじめて会ったときの印象を「“超”なんて言葉を使うんだっていうのが、一番気持ちよかった。“超凄くない?”とか」と語っている。重厚な作風でドストエフスキーと比されることもある中村だが、その素顔も大いに気になるところだ。