超展開連発! 『新テニスの王子様』の隠された魅力

マンガ

更新日:2012/10/1

 テレビアニメや舞台、映画化、ゲームなどさまざまなメディアに展開し、いまや知らない人のほうが少ないかもしれない『テニスの王子様』(許斐 剛/集英社)。主人公、越前リョーマをはじめ、手塚国光、跡部景吾などの個性的で魅力たっぷりなイケメンキャラたちが宝石のような汗を飛び散らせながらテニスをする、その姿に悶える腐女子も数多い。しかし、実は超展開連発で普通のテニスをやってくれない、ツッコミどころ満載のマンガとしても楽しめるようなのだ。

advertisement

 そこで『ジャンプスクエア』(集英社)に掲載されている続編の『新テニスの王子様』を読んでみると、ダブルスの試合で裏切りが発生、味方のはずのペアが「強い方につく。それが私のモットーです」と言い、対戦者からは裏切りキャラのパートナーめがけてショットが放たれる。かろうじてそれをよけるパートナー、しかしパートナーを狙い打つかのようにショットをはじき返す裏切りキャラ……。ダブルスなのに3対1の攻防、しかもひとりのキャラを狙ったラリーが展開されるという、目を疑うような光景が繰り広げられる。「もはやダブルスじゃなくね?」とか「テニスって対戦者に球を当てることを追求するスポーツだっけ?」という疑問もあるが、すでに前作『テニスの王子様』の時点で、ネット上でも「もはやテニスじゃない。これはテニヌという新たなスポーツだ」というツッコミが出ていた。

 そもそも『テニスの王子様』は、いつからまじめにテニスをしなくなったのか。単行本を紐解いてみると、前半ではまだ実現可能なラインでまじめにテニスに取り組んでいる。雲行きが怪しくなったのは主要キャラのひとり、菊丸英二がコート上で高速ステップを駆使して分身しはじめたあたりから。以降、さまざまなはっちゃけ展開が続出。主人公が「無我の境地」と“スーパーサイヤ人”化したり、自分の周囲に竜巻を起こすキャラが出たり、なぜかプレーヤーのひとりが血まみれで金網に食い込んでいたり。果ては、シングルスで対戦者同士が疲労のあまり同時に倒れ「先に起き上がったほうが勝つ」的なセリフが飛び出すなど、『テニスの王子様』はテニスというスポーツを超越し、バトルマンガと化していったのだ。

 こういった展開は、続編『新テニスの王子様』になってもとどまるどころか、勢いを増していく。たとえば、合宿参加をかけた試合で敗退したメンバーたちの前に現れたひとりのコーチ。彼は崖の前で、「勝ち残った方と差を広げられたくないと思った方のみ この崖を登ってみてはいかがでしょうか」と提案する。それに応じて崖を登りはじめる敗退メンバーたち。一見テニスマンガとはわからない光景が広がるが、登りきった山頂にはテニスコートがあり、そこでは体につけた風船を追ってくる鷲から守りきるなど地獄の特訓が繰り広げられるのである。

 ほかにも、眼力が強烈すぎるあまり敵の骨格まで透けて見え、関節や骨格が対応できない「絶対死角」を狙うことが可能になったらしいキャラが「スケスケだぜ!!」と言いながら球を打ち込んだり、ダブルスで双子のキャラクターが出てくるのだが、特になんの説明もなく、なぜかいきなり宙に浮いて現れたり。「デュークホームラン!!」という言葉とともに打ち返されたパワーキャラのショット、それを受けた選手が空高く吹っ飛ばされて試合が終了したりといった超展開の連続。

 このように毎号さまざまなネタを提供してくれる『新テニスの王子様』。「お願い、ちゃんとテニスをやって」とツッコミを入れつつも楽しむのが、通というものなのかもしれない。