第32回横溝正史ミステリ大賞『デッドマン』河合莞爾インタビュー

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更新日:2012/10/12

 東京都内で次々と発見される他殺死体。事件現場からは頭部や手足、胴体など、身体の一部が持ち去られていた。警視庁捜査第一課の鏑木は、警察の威信をかけて犯人を追うが、なかなか手がかりが掴めない――。

 第32回横溝正史ミステリ大賞受賞作『デッドマン』は幻想的な謎と、驚天動地のトリックを兼ねそなえた本格ミステリーの王道をゆく作品だ。応募の経緯についてうかがった。
 

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かわい・かんじ●熊本県出身。早稲田大学法学部卒。某出版社に勤務し多忙な日々を送るかたわら、ミステリー小説を執筆。2012年、初めて新人賞に応募した作品『デッドマン』で第32回横溝正史ミステリ大賞を受賞してデビュー。

「定年後もずっと続けられる趣味が欲しいと小説を書きはじめました。若い頃は仕事に忙殺されて、そんな時間はなかったですから。外に出すつもりはなかったんですが、唯一の読者である家内が『面白いよ』と誉めてくれた。じゃあ賞に出してみようかな、と思ったのがきっかけです」

 奥さんの反応を見ながら、約一年かけて完成させた作品は、新人賞初応募にして見事、横溝賞大賞を射止めた。受賞を知った時は、どんな気持ちだったのだろう。
「嬉しいというよりホッとしましたね。これまで家内以外に読ませたことがない作品。他の方が読んでどう感じるかは、予想もつかなかったので、とても不安だったんです」

 鏑木刑事の奮闘にかかわらず、連続殺人事件の捜査は難航する。その一方、見知らぬ部屋のベッドで一人の男が意識を取りもどした。謎めいた白衣の女によれば、彼は死体のパーツを組み合わせて造られた存在〈アゾート〉だという。果たしてそんな手術が本当に可能なのか? 死体から造られたという男=デッドマンの手記は、読者をめくるめく眩惑の世界に誘う。
「ミステリーの魅力は、謎ときよりも謎そのものにあると思います。前半でどれだけ鮮烈な『イリュージョン』を見せられるか。そこに力を入れたい。この作品ではデッドマンの一人称のパートを書くのが本当に楽しかったですね。死人になりきった気持ちで、ワクワクしながら書きました(笑)」

 各所で連続する猟奇殺人。そして、死体から造られた男。こう聞いて、おやっと思ったミステリー好きもいることだろう。本格ミステリーの巨匠・島田荘司の『占星術殺人事件』で描かれる事件と共通する点が多いからだ。

「色々とミステリーを読んできた中で、もっとも影響を受けたのが島田荘司先生の作品です。現実ではありえないようなシーンが、惜しげもなく描かれる。あれこそイリュージョンですよね。ミステリーを書くからには、『占星術殺人事件』を書かれた時の島田先生に、気概で負けたくなかった。挑戦などとおこがましい考えではなく、気概を見習ったつもりです」

 悪夢のような一連の事件。その背後には真犯人の邪悪なる意図が隠されていた。クライマックスにおいてすべての謎が明かされる時、あなたはきっと驚きの声をあげることだろう。
「根っから理屈っぽい性格なので、どんな謎にも合理的な解決をつけたくなってしまう。ロジカルに物語を組み立てることができるミステリーというジャンルは、自分の性格に合っているなと思いますね」

 すでに次回作のアイデアも浮かんでいるという河合さん。今度はどんな方法で、わたしたちを驚かせてくれるのか、本当に楽しみだ。

「次作のアイデアを担当さんにお話ししたら、『「ウルトラQ」みたいですね!』と驚かれました。これからも鮮烈なイリュージョンで楽しんでもらいたい。それが当面の目標です」
(取材・文=朝宮運河 写真=川口宗道)
 

紙『デッドマン』

河合莞爾 角川書店 1470円

体の一部を切断された遺体が都内で次々と発見される。一方、見知らぬ部屋で目を覚ました「僕」は、自分が他人の体をつなぎ合わせて作られた存在〈アゾート〉であることを知らされた。連続猟奇事件の背後に隠された驚くべき秘密とは。