谷崎潤一郎のあの名作が北欧でブームに!?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/26

 『陰翳礼讃』(中央公論社)といえば、谷崎潤一郎が日本の美意識を説いた名随筆。じつはこの渋い1冊が北欧で人気を集め、現在は国内でも突然棚から消えるほどに売れているのだ。

ヒットの理由は、先日放送された『ガイアの夜明け』にある。『海外に出たサムライ 日本を救う』と題し、西陣織を取り入れたソファの制作過程が放送されたのだが、そのなかでデンマーク人デザイナーが愛読書として『陰翳礼讃』を紹介。本書のなかで谷崎が述べる“日本人の光と陰の使い分け”について「外国人から見ると非常に魅力的で、興味深い視点です」と絶賛したのだ。実際に彼がデザインしたテキスタイルは“タニザキが描いた陰翳”を意識し、魚のエイのレントゲン写真(!)をモチーフに選んでいたほどで、これをきっかけに興味を持った視聴者が続出しているようだ。

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もともと『陰翳礼讃』は、国内の建築家やデザイナーが言及することも多く、デザイナーにとっては必読書。建築家の安藤忠雄やグラフィックデザイナーの原研哉、プロダクトデザイナーの深澤直人といった、日本を代表するデザイン界の重鎮たちも推薦してきた1冊だ。しかし、前出のデンマーク人デザイナーが番組内で「デンマークでは建築関係の学校で入門書になっているんですよ」と話すように、なんと国外でも大人気で、フランスやアメリカでも翻訳。明るさを追求する西洋とは異なり、暗さ=陰に視点を向ける日本独特の“ものの見方・感じ方”に影響を受ける人も多いようだ。

建築や照明にとどまらず、化粧や能の衣装、トイレにいたるまで、“陰翳”が持つ美しさを見つめた谷崎。グローバル化が進むいまだからこそ、この本があらためて日本の文化を知る足がかりの1冊になるはずだ。