あの「いまいち萌えない娘」が最強の萌えキャラに変身!?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/26

 「いまいち萌えない娘」を覚えているだろうか。

2010年末、神戸新聞社が行ったアルバイト募集の求人広告で、「右のキャラクターがいまいちいけてない(萌えていない)理由を3つ挙げなさい」という課題とともに掲載された美少女イラストのことだ。ツインテール、セーラー服(っぽい服)、ニーソ、だぶだぶの袖、ペタン座りと、その姿には「萌え」の要素がこれでもかと詰め込まれているのに、まったく「萌えない」ということで、ネット上で大きな話題となったのだ。

「色彩・配色が短調すぎてなえる」や「目が死んでる」「キャラクターが持つ物語・背景が見えない」「絶対領域の見せ方が分かっていない」など数多くのツッコミや駄目だしが寄せられたのはもちろん、「目をイキイキと描く」「鼻をかわいらしくデフォルメする」「髪や服装などは淡い色合いの配色にする」など萌えキャラにするためのアドバイスも、次から次へと出され、大手イラスト投稿サイト「pixiv」では、このキャラを萌えキャラに生まれ変わらせたイラストが続々と投稿される事態となった。実際、神戸新聞社のアルバイトに応募した人たちがどんな回答を寄せたのかわからないが、おそらくその何倍も効果的なアドバイスがネット上に集まったというわけだ。

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それから2年――。あの「いまいち萌えない娘」が帰ってきた。問題の求人広告を出した神戸新聞社から、4つの短編からなる小説集『小説 いまいち萌えない娘』(森田季節/神戸新聞社)がこの9月に出版されたのだ。

そうなると気になるのが、かつてネット上で展開された数々のアドバイスが、はたして生かされているのかということ。注目して見てみると……。

イキイキとした目、整った鼻、自然な笑顔、さわりたくなるほどふわっとした髪の毛、ニーソとスカートの間の絶対領域も完璧だ。表紙や挿絵を見るかぎり、外見はすごくかわいくなっている、ような気がする。

しかし、いざ小説を読んでみると、その中身は「いまいち萌えない」まま。いや、それどころか、20歳以上という年齢設定、録画しておいた『探偵ナイトスクープ』を朝から見る、昼間から酒を飲み酔っぱらうという行動、人をイラッとさせる発言など、いまいちっぷりがパワーアップしているのだ。

とくに酷いのが「兵庫県いまいち大会」という作品だ。

この大会、どうやら兵庫県振興のために集められた「いまいち萌えない娘」をはじめとしたキャラたちが、今後の方針を話し合う会合らしいのだが、「大会」と銘うちながら、場所は「いまいち萌えない娘」の部屋。しかも、メンバーが集まったとたん昼食懇親会と称して昼間から酒を飲みはじめて酔っぱらってしまうというグダグダぶりだ。

その後ようやく、会合がはじまり、何か主題歌的なものを作ろうということになるのだが、この歌詞がひどい。最初は「摂津・播磨・丹波・但馬・淡路! 五つの力が一つになって 強い兵庫を作り出す」ともっともらしい感じではじまるのだが、途中から「姫路城の天守の上から 敵がいないか探してる 田畑を荒らす悪の動物 鹿・猪 あまり悪さをしないでほしい お願いだから」と、いったい何が目的なのかよくわからない展開に。しかも、こんな歌詞を作っておきながら「微妙」とか他人事のように言う始末で、結局「すべては曲次第じゃないかなー」という身もふたもない意見で、グダグダなまま終わる。

とにかく、行動、セリフ、性格、なにからなにまでいまいちっぷりが全開なのだ。こんな調子で大丈夫か? 萌えセンサーがまったく反応しないぞ、と心配になってしまう始末。しかし、読み進めていくうちに、この「いまいち萌えない娘」が不思議とどんどん愛おしくなってくる。ダラダラした日常も、グダグダの会話も、イラッとさせる空気の読めない性格もかわいく思えてしまうのだ。

そういえば、2年前のネット上でも、じつは数多くのツッコミにまじって「いまいち萌えないところが萌える」という意見が複数飛び交っていた。もしかしたら、いまいちっぽさは、萌え要素なのか?

かわいくなったビジュアルと、「いまいち」っぷり全開の性格や行動。小説となって帰ってきた「いまいち萌えない娘」は、もしかしたら「最強に萌える娘」なのかもしれない。