糸井重里×よしながふみのラブロマンス対談が実現!

文芸・カルチャー

2012/10/9

 主宰するウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」で、「『ほぼ日』のジャムおじさん」としても名を馳せる糸井重里。ジャム作りにハマったきっかけは、週刊『モーニング』連載コミック、よしながふみ『きのう何食べた?』だという。この秋ドラマ&映画化される『大奥』の原作ファンでもある糸井。『ダ・ヴィンチ』11月号のよしながふみ特集にて、二人の対談が実現した。

糸井:それにしても『大奥』は、嘘の豪華さにやられましたよ。江戸の大奥が男女逆転、将軍様は女で3000人の男をはべらせているっていう、スタートから大嘘ですから。『大奥』って、『大嘘』ですから。しかも、将軍が代替わりして続いていくわけじゃないですか。僕は2巻が出たころに初めて手に取って以来、読み続けているんですが、「続きがあること」の喜びを噛み締めていますよ。そんなマンガ、久しぶりです。

よしなが:ありがとうございます。

糸井:この間、堺さんが僕のところへやって来て、今度『大奥』で芝居するにあたっての相談を受けたというと大げさだけど、話をする機会があったんですね。その時、僕は、「人が描きたいものって、根本的にはラブロマンスしかないんじゃないの?」って言ったんです。物語を描くってことは結局のところ、まだ見ぬ恋愛の追体験だったんじゃないか。

よしなが:私、恋愛モノがずっと描けなくて。読む分には夢中で読んで大好きなんですけど、自分で描くことができなかったんですよ。普通のボーイミーツガールが描けなかったから、少女マンガの世界とは違う場所で、ボーイズラブっていう男性同士の恋愛モノを描いていたんです。

糸井:それも、ラブロマンスですよね?

よしなが:そうですね。でも、なんとかして読み手としては大好きだった男女のラブロマンスを一度でいいから描いてみたい、という欲求が自分の中にずっとあって。やっと念願かなって描けたのが『大奥』なんです。1巻2巻と描き出してみて、「私、こんなに世界を歪ませないとラブロマンスを描けないんだ」ってことに気がついて、悲しくなったんですけど(笑)。

糸井:今の世の中、優れた物語、優れたラブロマンスを描く人たちがどんどん少なくなって、今は女性しかいなくなっちゃった。どうやら男の作家は、男と女が愛し合うっていうのはありうる行為だという前提でラブロマンスを描いちゃうんですよ。私があなたを見つけて、あなたは私を見つけて恋に落ちましたって自然に描けちゃえるんだけど、その「恋に落ちました」の正体にはものすごく複雑なものがある。そこのところを、よしながさんはあっちからこっちから描いている。「本当は愛って、こういうふうにできているんじゃないか?」っていう部分を触ろうとするから、面白いんですよね。
僕は『きのう何食べた?』が、最初に読んだよしなが作品なんですが、こういう恋愛の話もあるんだって衝撃を受けましたもん。40代のゲイのカップルで、長らく同棲をしていて。

よしなが:愛が終わっちゃった後の話が描きたかったんだと思います。恋愛のドキドキする気持ちは、一緒に暮らして何年も経つと全部なくなってしまっていて、家族として生きている。あ、でも、それも確かに、愛なんですよね。

糸井:その一方で、『大奥』では、男女のラブロマンスを正面から描いている。

よしなが:設定としてはいろいろひねってはありますが、私としてはすごく正統派のラブロマンス、正統派の少女マンガを描いてるなと思っています。

糸井:色恋だけ、ですからね。色恋と権力か。愛のお話と力のお話が織物みたいに重なっている。

よしなが:それこそ権力があるから描けてるのかもしれないです。『大奥』が私にとって、最初で最後のボーイミーツガール。この後たぶんもう、なくなる予定です(笑)。

取材・文=吉田大助
(ダ・ヴィンチ11月号特集「よしながふみ 愛がなければ…」より)