原作の隅々まで忠実にアニメ化された「遊郭編」、“地の文”はどのように表現されたのか/ TVアニメ『鬼滅の刃』第3話

アニメ

更新日:2021/12/26

鬼滅の刃
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

※この記事は最新話の内容を含みます。ご了承の上お読みください。

 夜の街・遊郭の闇が少年たちを包み込む。百年以上にわたり、人を喰らい続けてきた無慈悲な鬼。その懐に飛び込んだ少年たちは、この世界の悲しみと苦しみを見る。

 TVアニメ『鬼滅の刃』遊郭編・第3話「何者?」は、竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助の3人が遊女に変装し、鬼の棲む街・遊郭へ潜入する物語。ときと屋、京極屋、荻本屋にそれぞれ潜入した3人は、先に潜入し、消息を絶った宇髄天元の3人の妻・須磨、雛鶴、まきをの行方を追う。この遊郭では、何人もの遊女たちが行方不明になっていた。前借り金を清算せずに逃げる「足抜け」が横行し、須磨花魁も足抜けしたのでは、と噂が流れていた。荻本屋に猪子と名乗って潜入した伊之助は、鬼の気配を感じてまきをの部屋に侵入。そこに潜む何者かを追いかけていく。一方、京極屋に善子と名乗って潜入した善逸は、泣いている禿に声をかける。禿は蕨姫花魁にいじめられていた。そこに蕨姫花魁が現れ、善逸は彼女が鬼であることを見抜く――。

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 原作コミックスでは第9巻第73話、第74話にあたるエピソード。アニメ化にあたり、さまざまな要素がたっぷりと補完されており、多くの人々が働く遊郭の舞台裏が、活気あふれる人びとの仕事空間として描かれている。このアニメ『鬼滅の刃』の原作コミックスのテイストをあますことなくアニメ化し、さらにコマとコマの行間をしっかりと描くことが魅力のひとつとなっている。今回は遊郭編を軸に、そのアニメ化における語り口と演出のこだわり具合に注目してみよう。

 最初のこだわりポイントは、アニメ化の原作コミックスの話数だ。

 このアニメ『鬼滅の刃』では、毎週1話につき原作コミックスのおよそ2話分を映像化している。マンガを原作にするアニメ作品の多くは、通常2~3話をアニメ1話分としているため、平均的な配分と言えるだろう。『鬼滅の刃』のコミックスはだいたい1話につき19ページ(扉絵含む)。1ページにつき平均4~7コマくらいで構成されている。つまり、マンガ38ページの100コマ要素を、アニメの1話=おおよそ24分に振り分けているのである。アニメはだいたい1話につきおおよそ200~400カットの映像で構成されている。カットとは、カメラで一度に撮られる(描かれる)映像=画面のこと。そう考えるとアニメは、マンガのコマの2倍から4倍の画作りをしなくてはいけないのである。もちろんマンガのコマとコマの間には時間の経過があり、空間の移動がある。それらを上手くつなげるように、アニメではカット割りを行い、時間の流れと空間のつながりを表現しているのだ。

 ふたつめのこだわりポイントは、「地の文」だ。

 原作コミックスでは、地の文(説明文)とキャラクターのモノローグで状況を説明している。たとえば原作コミックス第9巻第71話では、吉原遊郭について「地の文」でたっぷりと解説している。アニメ版第2話では、遊郭を下調べするシーンを新たに作ることで、その「地の文」を宇髄天元のセリフに置き換えているのである。また、原作コミックス第9巻第72話「正直者の炭治郎が嘘を吐けない」ことを説明するシーンを、アニメ版ではレトロタッチな画面にしてテロップで説明していた。アニメでは「地の文」、つまり説明文を極力なくしているのである。

 3つめのこだわりポイントは、原作の隅々まで忠実にアニメ化すること。

 アニメでは、原作コミックスのセリフやマンガのコマを忠実に描いている。遊郭編ではとくに、炭治郎や善逸たちのギャグ顔がかなり大胆に描かれているのだが、吾峠呼世晴の独特なタッチをアニメでも見事に再現している。そのビジュアルへのこだわりはすさまじいばかりだ。しかも、原作コミックスの各話の間に書き下ろされている、吾峠呼世晴によるコミカルなカットの小ネタまでも、ストーリーに組み込むこだわりぶり。伊之助が奇妙なポーズで精神統一していたり、女将さんが戸惑うほど仕事熱心な炭子の姿など、物語の外で描かれている小ネタを、きっちりとストーリーに組み込んでいるのである。

 これらの要素を的確に映像に落とし込んでいるのが、ufotableの演出家陣だ。とくに遊郭編の第1話から第3話まで絵コンテを担当している栖原隆史氏の仕事(第1話の演出は下村晋矢と恒松圭の両氏、第3話の演出は宇田明彦氏)は際立っている。

 彼は学生時代に、ufotableで撮影監督を務めている寺尾優一氏とともに、自主製作アニメを作っていた人物だ。寺尾氏がufotableに入社したことをきっかけに、彼も入社。アニメーターとして活躍し、『Fate/Zero』(2011~2012年)で演出デビュー。『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』(2014~2015年)でローテーションの演出家として活躍。クライマックスのアクション回を手掛け、注目を集めた。『鬼滅の刃』竈門炭治郎 立志編では、鬼殺隊入隊の最終選別が決着する第5話(絵コンテ・演出)、那田蜘蛛山編の最終決戦となる第20話(絵コンテ・演出)、柱が勢ぞろいする柱合会議が描かれる第22話、第23話(絵コンテ)を担当。無限列車編では、アニメオリジナルの第1話の絵コンテを手掛けている。まさにアニメ『鬼滅の刃』のドラマパートを担ってきた、ufotable生え抜きの演出家である。

 アニメオリジナルをたくさん交えた遊郭編第1話、遊郭の説明を入れて世界観のセットアップをした第2話、そして江戸時代の遊郭、現在の吉原、ときと屋、京極屋、荻本屋それぞれの場所、そして潜入する2日前の京極屋など、時系列と場所が入り乱れる複雑な第3話。いずれもとても見やすくエモーショナルな映像に仕上げている。とくに第3話のCパート(エンディング後のパート)のホラータッチな演出は白眉。ブツっと途切れるように締めくくられる映像によって、視聴者には不穏な余韻だけが強烈に印象付けられる。鬼に捕まってしまった、善逸の運命やいかに!

 圧倒的な強さを誇る上弦の陸・堕姫。彼女は鬼殺隊の剣士たちを待ち構えている。炭治郎、善逸、伊之助たちは堕姫の正体を掴むことができるのか。次回、いよいよ炭治郎と堕姫が対決する。ますます期待が膨らむ遊郭編。戦いはここからだ。

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