マンガ編集者はなぜ怖いのか!?

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更新日:2012/10/16

 9月28日に発売されたマンガ『花咲さんの就活日記』(小野田真央/小学館)がおもしろい。
マンガ家を目指す主人公の花咲さんはマンガの仕事が全くないまま31歳を迎え「マンガを断ち切る」と思って仕事を探すが、2次面接に進むと「やっぱりマンガしかない」と面接をすっぽかす。マンガ家の夢を追うか、あきらめて就職か……。夢を追うことがカッコ悪いことになってしまったご時世だけに、30過ぎてなお夢と現実のはざまで揺れ動く花咲さんには共感と叱咤の賛否両論がうずまいている。

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 だが、マンガのなかで花咲さんに立ちはだかる最大の壁、それはマンガ編集者だ。実は花咲さん、一度は連載のチャンスをつかんだものの、「なんか、君ってテンション低くない…? 女性なんだからもっと明るくなれないかなぁ? 何? 何か言いたいの?」とネチネチ作品には関係ないことまで口出ししてくる編集者に負け、出版社から逃げ出してしまったのだ。そのトラウマを引きずっているので、他社の編集者のもとへ持ち込みに行ったときも「全部―あいつが悪いんだよっ!!!」とブチギレてしまい、逆に「性格が悪い人は生き残れないのよ」とバッサリ斬られてしまう。恥を忍んでもといた出版社に電話をかけるも「あなたは、もううちの漫画家じゃないの…!! 二度と電話をかけてこないで!!」と言われ、玉砕してしまうのだ。

 マンガ家と編集者は二人三脚で作品を作り上げるものだが、ときにはこうして激しい言葉で叱責する編集者も少なくない。古くは『まんが道』(藤子不二雄A/中央公論新社)や『燃えよペン』(島本和彦/小学館)などマンガ家マンガで頻繁に描かれてきた、恐ろしいマンガ編集者。一体彼らはなぜこんなにも恐ろしいのか、マンガに描かれた編集者を検証しよう。

 まず、『バクマン』(小畑 健:著、大場つぐみ:原著/集英社)に登場する逃亡癖のあるマンガ家・平丸の担当である吉田は、ことあるごとに理由を付けては仕事をサボろうとする平丸に対して「マンガ家を社会人と思うなよ」と言い放ち、他の作家のところに逃げ込んでもすぐに居場所を突き止めて連れ戻しにやってくる。さらに車やマンションを買わせてマンガを描かなければならない状況に追い込んだり、「原稿アップしたらキレイなお姉さんのいる店に連れていってやる」とか、平丸が好意をもっているマンガ家の蒼樹紅を餌に上手く彼をコントロールしているのだ。

 花咲さんと同じく連載のチャンスはつかんだものの、2度の打ち切りを食らった『ペンとチョコレート』(ねむようこ/芳文社)の主人公・フタバトワコ。他雑誌の編集者から原作付きでマンガ家をやらないかと声をかけてもらうのだが、ただし無名の新人として名前も絵柄も変え、「フタバトワコとしての君は必要ない」とまで言われてしまう。

 しかし編集者たちの、「理不尽に感じられる言動」と「手厳しいが的確な指摘」は紙一重だ。その多くは根底にマンガやマンガ家への情熱がある。真剣に考えるからこそ熱くなって衝突してしまったり、より良い作品を生み出すため、ときには心を鬼にしてマンガ家に理不尽と思われることもやってのけるのだ。しかし、それらはすべてマンガ家の才能に惚れ込んでいるからこそ。その思いが作家にも伝われば、単なる怖い編集者ではなく、信頼できるパートナーになる。

 たしかに中には、『ペンとチョコレート』に登場する編集者のように「ベッドの中で打合せするといいネタ出るんスかねぇ?」などとセクハラまがいのことを言ったり、担当作家のネタを他の作家に横流しするような最低な奴もいる。『出版社すっとこ編集列伝』(中邑みつのり/アスキー・メディアワークス)には「どこがダメなんですか…?」と作品に対する感想を求めた佐藤秀峰に対し「キミがダメ」とまさかの人格否定する者や、作家の原稿を盗み出して自分のコレクションにしていた者まで登場。ここまでくると、同情するしかない。

 しかし、『僕の小規模な生活』(講談社)などで自身のマンガ家生活を描いている福満しげゆきの、ハートの強さはすごい。打ち合わせに30分遅刻してきたくせに謝らない編集者がいても、編集者が「どんどん描きためないとストックがなくなるから急いで描きましょう」と言うので急いで原稿を仕上げて連絡したのに音沙汰がなくても、決してめげない。福満は編集者の話を真に受けないようにしているし、そんな編集者とのやりとりすらネタにしてしまうのだ。

 花咲さんもそうだが、本当にマンガ家を目指すなら、編集者にどんなに厳しく言われようと売れるために必死になってこれくらいの根性を見せるべきなのかもしれない。そうすれば、きっと強い信頼関係で結ばれた最高の編集者と巡り会えるはずだ。