ドラマより怖い! 『悪夢ちゃん』の原案小説

テレビ

公開日:2012/10/16

 先週の土曜日からスタートしたドラマ『悪夢ちゃん』。主演の北川景子が演じるのは小学校教師、表向きは優しくていい人だけど、腹黒い一面を持つ武戸井彩未。彼女が担任を務めるクラスに転校してくるのが、悪夢ちゃんこと古藤結衣子。予知夢を見ることができる小学5年生の女の子だ。北川景子演じる教師は、悪夢ちゃんに「助けて」と言われ騒動に巻き込まれていくのだが、2人は悪夢ちゃんが見た事件や危機を乗り越えていけるのか……?

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 悪夢ばかり見る少女なんて、なんだか不気味だが、実は原案となった恩田陸の『夢違』(角川書店)はもーっと怖かった!

 『夢違』は“夢札”なるものが普及した近未来の世界。この夢札は専用のヘッドホンを付けて眠ることで、その人が見た夢を映像化し、データとして記録できるというもの。そんな“夢札”が作られたことで、この時代では人々が自分や他人の夢を“視る”ことができるようになっているのだ。

 『夢違』のメインキャラクター・古藤結衣子は、とても鮮明な予知夢を見ることができる女性。そして、彼女が見るのは決まって悪夢ばかり。そう、名前で気づいた方もいるかもしれないが、ドラマの悪夢ちゃんは、この結衣子の幼少時代なのだ。ドラマでは、夢で見たことを現実にしないために悪夢ちゃんと先生は奮闘し、「未来は自分次第で変えられる」ということをテーマに作られているようだが、原案となった『夢違』ではそうはいかない。大人の結衣子は「夢の中の未来を回避したくて」毎日夢を記録して世間に公表していたが、世間の人々はいつ、どこで、そもそも起こるかもわからない未来を見せられても、それが何の役に立つのかと思っている。いくら結衣子が予知夢を見られると言っても、毎回これは何月何日どこどこで起こることですよーなんて都合良くわかるような夢を見られるわけではない。誰かが死ぬと分かっていながら、それがいつ、どこで起こるかまでは特定できないもどかしさ。周囲の人はだんだん慣れてしまい、挙句の果てには「意地になって、頼まれもしないのに不吉な夢ばかり見る女」などと揶揄される始末。そんな不幸を抱えて生きる結衣子の心中の苦しみはいかばかりか……。

 また、夢を解析する「夢判断」を職業とする人々は、あまりにも他人の夢を見すぎて今自分が見ているのは夢なのか現実なのかわからなくなる“夢札酔い”に陥ってしまう。見えないはずの夢を可視化してしまったことで、日常生活で死んだはずの人が見えたり、普通なら見えないものを見てしまうようになるのだ。現実と夢がごっちゃになって、見なくていいものや見えるはずのないものまで目にするようになっても、人は正気を保てるのだろうか? 普通の人なら、きっとおかしくなってしまうだろう。夢や未来を見ることができるということに何の意味があるのかと問わずにはいられない。

 そして最も恐ろしいのは、何者かに夢をコントロールされる事態まで登場してしまうこと。一度に大勢の人が同じ悪夢を繰り返し見たり、誰かが勝手に夢に現れては意味深な言葉や態度だけを残して去っていく。一種の催眠術のような状況ができあがってしまうのだ。最近、なりすましと遠隔操作による殺人予告の書き込みで無関係の人が逮捕されてしまうという恐ろしい事件が起きた。もし、何者かに夢をコントロールされたら、それ以上の事態に巻き込まれる可能性があるのだ。自分では全く身に覚えがないのに、誰かが夢をコントロールしたせいで夢の中でその犯罪過程を見せられていたとしたら……。絶対に自分が犯人ではないと言い切れるだろうか? そう考えると誰も、何も信じられなくなって、眠ることすら怖くてたまらなくなるだろう。

 ドラマ『悪夢ちゃん』が成長した世界が、これほどまでに恐ろしい世界だったとは……。悪夢ちゃんの20年後を描く原案小説『夢違』、ドラマと合わせて読んでみてはいかがだろうか。ドラマも小説も、より深く楽しめること間違いなしだ。