今月の特集 2012年6月号『怪談実話コンテスト傑作選3 跫音』刊行記念座談会

更新日:2012/11/1

正真証明、すべて実話!
『怪談実話コンテスト傑作選3 跫音』刊行記念座談会
丸山政也×大谷雪菜×剣先あやめ

『幽』怪談文学賞とW受賞の三輪チサ、『無惨百物語 ゆるさない』の黒木あるじ、 『五千四十の死』で単著デビューを果たした江原一哲など、 怪談実話の明日を担う新人作家を輩出している『幽』怪談実話コンテスト。 第3回目となる今回は、大賞受賞者1名、優秀賞受賞者2名が誕生。 実話ジャンルの盛りあがりを示す結果となった。 受賞者3名の喜びの声をいち早くお届けする!
取材・文=朝宮運河  写真=首藤幹夫

怪談実話コンテスト傑作選3 跫音

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加門七海、東 雅夫、 平山夢明、福澤徹三/編 / MF文庫ダ・ヴィンチ / 520円

実話であることを条件に募集される、本邦唯一のコンテストも早いもので第3回目。入賞者7人(丸山政也、大谷雪菜、剣先あやめ、宇津呂鹿太郎、ねこまた、井上賢一、松本れある)の入選作品に加え、各1作の書き下ろし作品を加えた恐怖と幻想の怪談実話集。オール実話でお届けする、怪談実話の最先端!

まるやま・まさや●1973年、長野県生まれ。ビーケーワン怪談大賞などに作品を投稿。2011年「もうひとりのダイアナ」で第3回『幽』怪談実話コンテスト大賞を受賞。松本市在住。

――「もうひとりのダイアナ」で見事、第3回大賞を射止めた丸山政也さん。受賞作は著者の実体験談だ。語学留学のためロンドンを訪れた20代の著者は、値段の安さに惹かれてポーランド移民の老婆の経営する古い下宿屋へ。そこにはあのダイアナ妃そっくりの美しい娘が住んでいた。やがて丸山さんは彼女の意外な一面を知ることに……。

丸山 本当にダイアナによく似た、綺麗な方だったんです。それだけにショックな体験でした。当時は結構真剣に悩んでいて、日本に帰ろうかなと思ったくらい。生々しい体験だったので、しばらく文章にすることができませんでしたね。今回すんなり作品化できたのは、時間が経過して距離を取れたからかもしれません。

――丹念に描きこまれたロンドン市街の様子が、ラストの怪異シーンをさらに効果的なものにしている。紀行文として読んでもこの作品は魅力的だ。

丸山 作品には読み応えを求めるほうなので、自然とそういう文章になるのかもしれません。“起承転結”でいうと“承”の部分がつい長くなってしまう。怪談実話ってどれもフォーマットが似ているでしょう。あのフォーマットを崩したかった、というのもありますね。

おおたに・ゆきな●1991年、福島県生まれ。2011年「いなさった」で第3回『幽』怪談実話コンテスト優秀賞を受賞。現在都内の大学に在学中。

――大谷雪菜さんは知人・Iさんの体験談「いなさった」で優秀賞を受賞した。舞台になっているのは、車も滅多に走らないという福島県の山村だ。土葬の風習が残っていたその村でIさんが遭遇した事件を、ユーモラスな筆致で描いている。

大谷 Iさんは母が経営している会社に勤めているおじさん。話上手で、お茶の時間になるとおかしい話をたくさんしてくれる。「いなさった」もそうした話のひとつです。本人は笑い話のつもりでしたが、よく聞いてみると怪談なんですよね。一度招かれてIさんの故郷に行ったことがありますが、家に土間が残っていたり、お正月には裃を着たりして、面白い土地でした。

――大谷さんが怪談実話を手がけたのは、今回が初めての経験だという。

大谷 わたしが憧れるのは小川未明のような、怖さの中に哀しさや美しさがある怪談なんです。自分でもそういう小説を書いているんですが、あまり周囲の評判がよくなくて……(笑)。初めてIさんの体験談を書いてみたら、みんなが面白いと言ってくれた。賞までいただいてしまって、びっくりしています。

けんざき・あやめ●1977年、長野県生まれ。2009年「禁のモノ」が『すこぶる奇妙に怖い話』に佳作入選。2011年「らくがき」で第3回『幽』怪談実話コンテスト優秀賞を受賞。大阪府在住。

――剣先あやめさんは高校時代の体験談「らくがき」で優秀賞を受賞。祖父の持っていた借家を片付けにいった剣先さんは、そこで天井いっぱいに描かれたらくがきを目にする。しかし以前の住人には子どもがいないはずで……。

剣先 不思議なことに、この話はずっと忘れていたんです。怪異にかかわった最後のお一人が亡くなって、後始末などでバタバタしているときにふっと思い出した。怪談実話コンテストにはこれまで2回応募していますが、今回はなぜか「いけるんじゃないかな」という手応えがありましたね。

――ゾッとする怪異シーンを、のどかな日常風景がやわらかく包みこんでいるのが「らくがき」の特徴だ。

剣先 読んだ時はそれほど怖くないのに、一拍おいてゾッとなる。そんな怪談が理想的ですね。それを教えてくれたのは『新耳袋』。怪談は子どもの頃からたくさん読んでいますが、一番影響を受けたのは『新耳袋』だと思います。

――有力な新人作家が続々と登場し、ますます盛りあがりを見せる怪談実話シーン。それぞれ個性的な作品でデビューしたお三方が、どんな活躍を見せてくれるか本当に楽しみだ。最後に今後の抱負をうかがってみた。

丸山 人生の深み、実相を感じさせるような怪談を書いてゆきたいです。ちょっと古くさいかもしれないですが、もともと純文学畑の人間なので(笑)。その意味では、福澤徹三さんの怪談に強く惹かれますね。一度読んだらおしまいではなく、二度三度と読み返せるような怪談が書けたらと思っています。

大谷 すごく怖いものより、奇妙な話、変わった話くらいの怪談が好きなんです。途中まで面白く読めて、最後でちょっと不思議な気持ちになる。そんなライトノベルのような感覚で読んでもらえれば。まわりには変な体験をした人がたくさんいるので、実話のネタには困りません。小説と併行して、これからも実話をどんどん書いていきたいですね。

剣先 あの日、借家のドアを開けるまで、自分が怪異に遭遇するとは思ってもいませんでした。怪異はあなたのすぐ隣にあります。読んだらちょっとだけ闇が濃く感じられる。そんな怪談を目指していきたいです。

怪談実話コンテスト傑作選 黒四

加門七海、木原浩勝、東 雅夫、 平山夢明、福澤徹三/編 / MF文庫ダ・ヴィンチ / 520円

“体験談にもとづく怪談実話作品”のみを対象に募集された第1回『幽』怪談実話コンテスト。過酷なダム工事現場で起きた慄然たる奇跡を描く大賞受賞作「黒四」から、決死の覚悟で書き下ろされた話題作「しにますよ」まで、怪談界のトップランナーたちによって選び抜かれた受賞作8篇と書き下ろしから成る、純度100パーセントの“怪談実話”全16篇。巻末には同賞選考会の詳報を収録。

怪談実話コンテスト傑作選2 人影

加門七海、東 雅夫、 平山夢明、福澤徹三/編 / MF文庫ダ・ヴィンチ / 520円

“体験談にもとづく怪談実話作品”のみを募集した第2回『幽』怪談実話コンテスト。怪談界のトップランナーたちが、噂でも都市伝説でもない“本物”の怪談実話を精選した。小学校に伝わる怪異を情緒的に描いた「カベトラ」、苦い後味が印象深い「こどもがえり」、重厚な家系譚「葬儀は続く…」などの受賞作7篇、および受賞者による書き下ろし新作7篇を収録した傑作怪談集。