復元で話題の東京駅が実は大阪に現存していた!?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/26

 約5年にもわたる工事が終わり、駅舎の復元に湧く東京駅。週末ともなると観光客が丸の内口周辺に集い、レンガ造りのレトロモダンな建築をバックにカメラで記念撮影が定番となりつつある。

 この東京駅は、日本で最初に建築家を名乗ったともいわれる辰野金吾の設計によるもの。日本銀行本店をはじめとして、さまざまな建築物を手がけた人物だが、大阪城地下に位置する大阪国の国会議事堂も辰野の作では、といわれている。

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 ……え、大阪国? そう疑問に思われた方、嘘をついてごめんなさい。大阪国国会議事堂とは万城目学の小説『プリンセス・トヨトミ』(万城目 学/文藝春秋)のなかのお話で、もちろんフィクション。しかし、『プリンセス・トヨトミ』には、物語のキーになる“長浜ビル”も辰野の建築物として登場。“長浜ビル”は小説内の架空の建物だが、口絵に描かれた外観を見る限りは、1912年に辰野が建築した大阪教育生命保険(現・opera domaine 高麗橋)がモデルのようである。このほかにも、作中では辰野の経歴も細かく紹介。「辰野金吾の建築の特徴は、何といっても英国フリークラシックの手法に基づく、赤レンガの壁面に白い石材を帯状に幾重も巡らせた立体構成にある」といったように、辰野建築の個性についても詳しく触れられている。さらには、登場人物が辰野のことを「辰っつぁん」と呼ぶほどなのだ。

 じつは辰野の建築物、東京で現存しているのは日本銀行と復元された東京駅のみ。対して大阪には、『プリンセス・トヨトミ』にも「現存する建物は、比較的関西に多く」とあるように、前出の旧・大阪教育生命保険のほか、中之島にある日本銀行大阪支店や、同じく中之島の大阪市中央公会堂、南海電鉄の浜寺公園駅といった建築物がいまなお現役で使用中。また、近年、女子人気も高い奈良ホテルや、異国情緒漂う神戸旧居留地の街並みにピッタリな、みなと元町駅(旧・第一銀行神戸支店)、有名建築物がひしめくなかでも目をひく京都文化博物館別館(旧・日本銀行京都支店)など、京阪神エリアには辰野建築が点在しており、関西人には馴染み深い風景になっている。

 『プリンセス・トヨトミ』は、“阪神、吉本、道頓堀”のようにコテコテなパブリックイメージとは違う、日常の大阪、もうひとつの大阪を意識して書かれたそう。おそらく辰野の建築も、そうしたあまり知られていない“モダンな大阪”を引き出す役割を担っているのではないだろうか。

 賑わう東京駅はもちろんのこと、この機会に大阪で辰野建築を巡ってみるのもきっと面白いはず。そのときは、ぜひ『プリンセス・トヨトミ』で“辰っつぁん”についての予習をオススメしたい。