乙女思考がせつなさを生む「乙女男子BL」が人気

BL

更新日:2014/4/14

 『花とゆめ』(白泉社)で連載された菅野文の『オトメン(乙男)』によって浸透した乙女男子。お菓子作りや裁縫、化粧や花などの“乙女的趣味”に興味・関心があったり、乙女的な考え方をするけど男らしさも兼ね備えているのが特徴だが、そんな乙女男子がいまBLでも大人気。

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 『テンペスト』(講談社)の阿仁谷ユイジが描いた『完璧な飼育』(リブレ出版)には、お互いに相手のことが好きすぎて一緒にいるために「女の子になりたい」と思っている幼なじみ同士や、見た目は無骨で硬派な板前なのにファンシーなものが大好きで、BLのCDを聞いて心の傷を癒すロマンチストなどが登場。相手のためにかわいくなりたいという願望や甘いセリフで癒されたいという感情は、一度は経験したことがあるものだろう。

 また『乙女男子と奪われたい男』(神崎貴至/竹書房)には向かいの薬局に勤める薬剤師が好きで、毎日栄養ドリンクを買いに通ったり、飲みに誘うけど下心がバレるのが怖くて毎回酔いつぶれてしまう臆病なスポーツインストラクターや、惚れ薬を飲ませようとしたり、ゲームに夢中で自分に構ってくれない彼氏に怒って「別れよう」と言い出すかわいらしい乙女男子が出てくる。好きな人に会いたくて毎日通ったり、相手が自分をほったらかしてることに怒るなんてまさしく“乙女”そのもの。

 どうやら、BLにおける乙女男子は乙女的趣味だけでなく、女の子なら誰もが共感できる乙女的思考を持つ男性を指す場合が多いようだ。

 なかでも注目なのが、懐十歩のデビュー作『狼は魔法を』(懐 十歩/ソフトライン 東京漫画社)。主人公の永瀬は思考回路が完璧に乙女なのだ。突然友達に「俺の顔って女より綺麗?」と聞いてみたり、「女のように甘やかされたい」と願う彼。彼氏がいる女友達に嫉妬したり、一緒に映画に行っても「慣れちゃったから隣にいるだけじゃドキドキもしない」という女の子とは違い、自分なら「二時間隣にいれる時間を大事にする」と誓うような健気な男の子なのだ。そして「貰ったプレゼントを毎日身に付けて 嫉妬される事に喜んだり 自分のものだと束縛したい」と、女の子や彼女だったら当たり前にしてもらえることを夢に見る永瀬。でも現実では、好きな人に「男の体は無理」と拒絶されてしまう。「ただ 女のように男に愛されたかっただけなのに」と泣く永瀬の姿は、女の子よりもよっぽど乙女なのだ。

 でも、これが女の子だったら話は別。彼らが愛されるキャラなのはやはり男だからこそ。付き合える可能性も幸せになれる可能性もたくさんある女の子が、ただうじうじと悩んでいるだけでは、重くてうっとうしいキャラで、女子の共感なんて得られない。でも男性である彼らはそれだけで恋のハードルが上がり、心の中の葛藤や切なさも増す。告白したくても、その後まわりに言いふらされたりしないか、気まずくなったりあからさまに避けられたりしないか心配になるのは仕方がないことだろう。でも、そんな彼らを応援することで女子自身も励まされ、勇気づけられているのではないか。女子が同じことをしても共感しにくくても、「愛されたい」「自分のことを好きになってくれる人に出会いたい」という感情は心の奥底では誰しもが持っているもの。その欲求をストレートに出せるBLだからこそ、乙女男子が支持されているのではないだろうか。みなさんも乙女男子BLを読めば、自分の中の“乙女”な部分に気がつくかもしれない。