「勝負回」の秀逸なアクションシーンを作り上げた、巧みな演出術/TVアニメ『鬼滅の刃』第10話

アニメ

公開日:2022/2/12

鬼滅の刃
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 追い詰められた少年は抗う。自分には及ぶべくもない強さを誇る相手に一矢を報いるために――いや、相手を倒しきるために。嘲笑われても、指を折られても、殴り飛ばされても、心は折れない。圧倒的な強さの敵を倒すために耐え忍び、反撃を仕掛ける。傷つき倒れていた剣士たちも、その熱い想いに応えて立ち上がる。

 TVアニメ『鬼滅の刃』遊郭編・第十話「絶対諦めない」は、鬼舞辻無惨の直属の鬼たち上弦の陸の堕姫、妓夫太郎と、竈門炭治郎たち鬼殺隊の戦いが決着するラストバトルのエピソード。原作コミックス第92話「虫ケラボンクラのろまの腑抜け」の途中から第94話「何とかして」までをアニメ化したものとなる。

 頭の中でささやいた禰豆子の言葉で炭治郎が目を覚ますと、あたり一面は火の海。音柱の宇髄天元は片腕を失い昏倒、嘴平伊之助も心臓を突かれて倒れ、我妻善逸は瓦礫の下敷きになっていた。そこに上弦の鬼・妓夫太郎が現れる。「みっともねえなあ」と妓夫太郎は炭治郎を嘲笑うが、彼はじっと我慢する。そして、妓夫太郎の隙を突き、頭突きと毒を塗ったクナイを突き刺す。動けなくなった妓夫太郎の頸に日輪刀を突き立てる炭治郎。妓夫太郎はその刃を跳ねのけるのだが、そこに復活した宇随天元が現れた。そのころ、善逸は雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 神速で、堕姫の頸を斬ろうとしていた。反撃しようとする堕姫を、復活した伊之助の刃が防ぐ。炭治郎と宇髄、善逸と伊之助がそれぞれ上弦の鬼の頸を斬る! 驚くほどの作画と撮影演出により、TVアニメ『鬼滅の刃』においても屈指の戦闘シーンを見せつけた。

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 この第十話は、遊郭編において最もピークとなる話数。「勝負回」とも言うべきエピソードだ。

 第十話の絵コンテ・演出を手掛けたのは白井俊行氏。TVアニメ『鬼滅の刃』では、竈門炭治郎 立志編(第一期)の勝負回・第十九話「ヒノカミ」の絵コンテ・演出を手掛けた人物である。

 第十九話「ヒノカミ」は、鋼鉄のように硬い蜘蛛の糸を操る下弦の伍・累と炭治郎、禰豆子の決戦が行われたエピソード。蜘蛛の糸に禰豆子が囚われ、炭治郎は折れた日輪刀で鬼の累に斬りかかる。硬い糸に阻まれた炭治郎は、父がかつて舞っていたヒノカミ神楽を思い出し、その舞いに合わせて刀を振る。そこに禰豆子が血鬼術・爆血を使い、炭治郎の刀に炎をまとわせた。炭治郎のヒノカミ神楽の炎、禰豆子の爆血の火、そして累の真紅の糸。絵コンテを担当する白井氏は、炭治郎の赤色と、禰豆子の赤色、累の赤色という3つの赤色を見事に使い分け、美しくも激しいアクションシーンを作り上げた。また、累を倒したあとに、第十九話だけの特別なエンディングテーマ「竈門炭治郎のうた」が流れ、兄・炭治郎と妹・禰豆子の深い絆を描くことで、『鬼滅の刃』のテーマをクローズアップ。シリーズのクライマックスを飾ったのである。

 この第十九話は、『鬼滅の刃』の原作者の吾峠呼世晴も絶賛。「作画、演出、音楽、全てが凄すぎて作者もボロ泣きしましたので、是非皆さんにも見ていただけると嬉しいです。仕事中もコソコソ見ていたのですが感動して泣いているのがアシスタントさんにバレないよう頑張りました。一生懸命漫画を描いて本当に良かったです」とコメントを寄せている。こちらも「勝負回」と言えそうな第十九話は、多くのファンから高く評価され、アニメ『鬼滅の刃』の人気を不動のものにしたのだった。

 アニメーション制作会社ufotableで、白井氏はアクションアニメーターとして、『Fate/Zero』(2011~2012年)などのアクション回で作画監督を務めてきた人物だ。『Fate/Zero』後に演出へと転向。『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』(2014~2015年)や『テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス』(2016~2017年)で各話の演出として活躍すると、『活撃 刀剣乱舞』(2017年)で監督を務めた。まさに作画の視点から、けれん味のあるアクションを作ることができる演出家といえるだろう。

 遊郭編・第十話は、竈門炭治郎 立志編・第十九話と同じ色彩のコンセプトが用いられている。第十九話が炭治郎の赤、禰豆子の赤、累の赤という3つの赤の構成だとすれば、今回の第十話では遊郭炎上の炎の赤、宇髄天元の2本の日輪刀が爆発する赤という3つの赤を見事に調和させた。

 また、敵の攻撃動作を音に変換して攻撃の間を取るという宇髄独自の戦闘計算式「譜面」が完成したシーンは、アニメオリジナルの演出で描写。計算式をイメージしたビジュアルを重ね、宇髄天元の脳内の計算を鮮やかに絵解きした。そして、遊郭を縦横無尽に走り回り、超スローモーション(ハイスピードカメラ)を駆使して、すさまじいアクションシーンを作り上げたのである。

 最後は、巨大な爆発とともに遊郭が火に包まれる。尺をたっぷりと使った余韻ある終わり方も印象的。激闘が終わったあとを、しっとりとしたBGMが締めくくる。まさしく圧倒的な回だった。

 遊郭編の「勝負回」も見事なクオリティで、いよいよ物語は結末へと向かう。次回は遊郭編・最終回。頸を斬られた堕姫と妓夫太郎の末路とは――。最後まで目が離せない!