『ミレニアム』120万部突破! 北欧ミステリーはなぜ売れる?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/26

 文庫版全6巻という超大作ながら120万部を突破したスェーデン発のミステリー『ミレニアム』。昨年は実写映画化もされ、同作は北欧ミステリーが注目されるきっかけとなった。

独特の風土が生んだ北欧の地は実は良質なミステリーの宝庫でもある。『ダ・ヴィンチ』11月号では、そんな今大注目の北欧ミステリーを特集。ミステリー評論家の杉江松恋が、その歴史を紐解くとともに、押さえておくべき北欧ミステリーを国別に紹介している。

ミレニアム』の生まれた国・スウェーデンについて杉江氏は、「北欧ミステリーの要となるのはスウェーデンであり、現代の北欧ミステリーの原型もこの国の作家マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールーによって作られた」と語る。社会運動家で、祖国の福祉国家政策が行き詰まりを見せ始めたことを憂いていた彼らの代表作『笑う警官』など6冊を、スウェーデンのおすすめミステリーとして紹介している。

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また、スウェーデンの隣国ノルウェーでは、警察官やジャーナリストの職歴がある硬派の作家で、96年には法務大臣も経験しているアンネ・ホルトを重要な作家として挙げている。

デンマーク発のミステリーのなかで、杉江氏が「最近のヒット作」として勧めるのはユッシ・エーズラ・オールスンの警察小説〈特捜部Q〉シリーズ。これは、早川書房の『ミレニアム』担当編集者もイチオシの作品だ。

そしてそのデンマークから独立した北大西洋の島国・アイスランドについては今、注目度が急上昇中と語る。
「人口32万人強の小国だが、英国探偵小説が好まれるなど、昔からミステリー熱の高かった国だ。20世紀の末になってようやく『魔女遊戯』のイルサ・シグルザルドッティルなどのオリジナルの作家が登場し、今後の動向に注目が集まっている」とのこと。

そして最後に、『ミレニアム』の功績についてはこう語った。
「ヘニング・マンケルの成功以降北欧は世界から注目される良質なミステリーの産地となった。その知名度を一気に押しあげたのが、スティーグ・ラーソンの『ミレニアム』3部作である。社会告発を伴う硬派のプロットの上にテンポの良い冒険物語が構築された。ラーソンこそは21世紀型と呼ばれるにふさわしい新しい北欧ミステリーの完成者なのである」

同誌では、それぞれのおすすめ作品の魅力と国の特性などを記した、杉江松恋の寄稿も掲載している。

<スウェーデン>
■『誕生パーティの17人』ヤーン・エクストレム/著 後藤安彦/訳 創元推理文庫 ※現在、品切れ
■『笑う警官』マイ・シューヴァル、ペール・ヴァールー/著 高見 浩/訳 角川文庫
■『目くらましの道』(上・下)ヘニング・マンケル/著 柳沢由実子/訳 創元推理文庫
■『靄(もや)の旋律』アルネ・ダール/著 ヘレンハルメ美穂/訳 集英社文庫
■『制裁』アンデシュ・ルースルンド、べリエ・ヘルストレム/著 ヘレンハルメ美穂/訳 ランダムハウス講談社文庫 ※現在、品切れ
■『氷姫 エリカ&パトリック事件簿』カミラ・レックバリ/著 原 邦史朗/訳 集英社文庫

<ノルウェー>
■『女神の沈黙』アンネ・ホルト/著 柳沢由実子/訳 集英社文庫 ※現在、品切れ
■『湖のほとりで』カリン・フォッスム/著 成川裕子/訳 PHP文芸文庫

<デンマーク>
■『特捜部Q 檻の中の女』ユッシ・エーズラ・オールスン/著 吉田奈保子/訳 ハヤカワ・ミステリ文庫
■『殺人にいたる病(やまい)』アーナス・ボーデルセン/著 村田靖子/訳 角川文庫 ※現在、品切れ

<アイスランド>
■『魔女遊戯』イルサ・シグルザルドッティル/著 戸田裕之/訳 集英社文庫
■『湿地』アーナルデュル・インドリダソン/著 柳沢由実子/訳 東京創元社

ダ・ヴィンチ11月号「文庫ダ・ヴィンチ」より)