ラノベの主人公は妹にどこまで尽くせるのか?

マンガ

更新日:2012/10/29

 今やラノベ作品の中で、大きな割合を占めている“妹萌え”ラノベ。どうやらこの“妹萌え”ラノベのポイントは、どこまで妹に尽くせるかにかかっているようなのだ。

 例えば“妹萌え”ラノベの代表作とも言える『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(伏見つかさ:著、かんざきひろ:イラスト/アスキーメディアワークス) には、隠れオタクの妹のために体を張ってくれる兄・京介がいる。妹の桐乃は成績優秀で運動神経も抜群、おまけに読者モデルまでつとめるような完璧な女の子だが、子供向けの萌えアニメや18禁の美少女ゲームが大好きな“隠れオタク”だという秘密を持っているのだ。そんな桐乃に友達を作るため、自分は一切ゲームもしない非オタクなのに、わざわざオフ会まで付いて行ってあげる京介。さらに、桐乃が持っている18禁ゲームが見つかり、彼女の趣味が厳格な父親にバレたときは「これは自分のものだ!」と言って桐乃をかばうのだ。普段は挨拶さえしない仲なのに、父親に刃向かって殴られてまで守ってくれるなんて素敵すぎる。

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 そして、『ささみさん@がんばらない』(日日日:著、左:イラスト/小学館) には、奴隷体質の兄が登場。主人公の鎖々美は、引きこもりの少女。着替えも食事もなーんにも頑張らない彼女を支えているのは、鎖々美にとことん尽くす兄の神臣だ。普段から「ささみさん大好き♪」と言いまくり、毎朝、鎖々美を起こしに行っては、口をパクパクさせながら「食べさせて」とねだる彼女にごはんを与える。何かあると「ささみさん僕に何か用事ですか!?」とすぐに駆けつけるような献身的な神臣だが、鎖々美は兄のことが大嫌いだと言うのだ。ここまで世話を焼かせているのに、なんとも報われない。

 さらに、10月20日に2巻が発売された『覚えてないけど、キミが好き』(比嘉智康:著、希望つばめ:イラスト/一迅社) には、命懸けで妹に尽くす兄まで登場する。毎朝、寝起きの妹に5秒間ハグするという日課を持つ主人公の小衣吉足。妹に殴られても変態呼ばわりされてもハグし続けるのには理由があった。なんと、妹のひなたは人の運を吸収しないと生きられない体質だったのだ!

 当然、毎朝ハグをしている吉足にはさまざまな不幸が降り注ぐ。毎月1回は登校中に鳥のフンを落とされ、魚を焼くと猫が網戸を突き破ってやってきて魚をくわえて逃げていく。これくらいの不幸ならまだ耐えられるが、飛行機に積んであった貨物が家の庭に落ちてくることもあるのだ。一歩間違えば即死である。さらに、金曜日に学校の屋上に閉じ込められた時はなぜかケータイの電波もつながらないし、直射日光がガンガンに照りつける中飲み物すらない。かと思えばいきなり大雨が降ってきたり、壊れたフェンスに引っかかって屋上から落っこちそうになるのだ。こんな危険が待っていると分かっていても、人の運を吸収しないとひなたが死んでしまうので日課のハグは欠かさない。

 しかも、ひなたがそのことを知れば絶対にハグを拒むと思い、彼女には一切伝えずに自らの日課をこなすのだ。周りの人から「小吉」というあだ名をつけられても、変態のレッテルを貼られてもすべては妹のため。

 人が誰かに尽くす姿は素敵だが、それが好きな人のためだったら「自分をよく見せたい」とか「好きになって欲しい」といったさまざまな思いが渦巻いているので、ついつい見返りを求めてしまう。しかし、家族である妹に対してはそんな打算や計算がない。妹とは大切な家族の一員であり、自分よりも年下の女の子なのだから無条件に守らなければならない存在である。それゆえ男の庇護欲をかきたてるのだ。そして、“妹萌え”ラノベに惹かれる読者は、妹キャラのためならなんだってしてあげたいと思っている。その欲求を満たしてくれる主人公でなければ、兄を名乗って欲しくないのだ。だからこそ、妹キャラにどこまで尽くせるかで愛情を表現しているのだろう。

 この先、ラノベの主人公は妹のために一体どこまで尽くすことができるのか? すべてはそこにかかっている。