まさか作家デビュー!? 宇多田ヒカルと熊野の“深い縁”

芸能

更新日:2012/10/29

 活動休止中の宇多田ヒカルが先日Twitterで、熊野古道を巡礼中にじん帯を損傷したことを明らかにした。幸い大事には至らなかったようだが、しかし、なぜ宇多田は女一人、熊野でお遍路巡りをしていたのだろうか?

 熊野といえば、「紀伊山地の霊場と参詣道」のひとつとして世界遺産にも登録された、パワースポットとして知られる場所。一部では“宇多田は熊野古道にパワーを求めたのでは?”と報じられた。

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 しかし、パワースポットとしての熊野ではなく、宇多田とこの地には深い縁がある。それは、彼女が熱心な中上健次ファンである、というものだ。

 公式HPの「好きな作家」欄にも、宮澤賢治の次に中上健次の名を綴っている宇多田。中上健次の娘で作家の中上紀と対談した際にも、中上健次を愛読していることを語り、過去には『異族』『紀州弁』(『鳥のように獣のように』所収)を好きな作品として挙げていた。また、宇多田の著書『線‐sen‐』(EMI Music Japan Inc.、U3music Inc.)に収録されている日記でも、「文章が力強くて、英語みたいな日本語でおもしろいっす。露骨なのになんだか人間的に繊細な部分を感じちゃうのもまた好き」「彼のバックグランドを学校で習ってから余計好きになった」と書いている。さらに、シングル『ぼくはくま』発売時に行った「くまちゃんぬりえ」コンテストの選評でも、釣り上げたばかりの魚を枯木の側で孤独に食らいつくくまちゃんを、筆圧が感じられる濃いめの彩色で表現した8歳の女の子の応募作品に対し、「文学で言うなら中上健次のような力強さを感じます。」とコメントを寄せていたほど。

 くまちゃんの土着風味なイラストにさえ中上を想像するほどに、中上文学をこよなく愛する宇多田。その中上作品は、大半が故郷である新宮市などの熊野地方が舞台だ。芥川賞を受賞した『岬』や代表作『枯木灘』では、古来から信仰の地であった熊野の圧倒的な自然を描写するなかで、人間の性と暴力を根源から表現。中上の熊野へのこだわりはとても強く、1990年には「熊野とは何か」を考えるための講座「熊野大学」を設立し、死後にはセミナーとして毎年合宿が開かれ、今年も柄谷行人や浅田彰、『軽蔑』『千年の愉楽』といった中上原作の映画に主演している高良健吾などがシンポジウムを行った。こうして考えてみると、宇多田はスピリチュアルな力を求めたというよりも、ファンとして熊野を巡礼したかったのでは……とも思える。

 彼女にとって熊野という特別な場所で、一体どんなことを感じたのか。その感想も気になるところだが、以前より“小説を書きたい”と話している宇多田。ミュージシャンとしての復帰よりも、もしかすると作家デビューのほうが先……ということもあり得るかもしれない。