第19回日本ホラー小説大賞 大賞『先導者』小杉英了インタビュー

ピックアップ

更新日:2012/11/6

 これまで3度も最終選考に残りながら、惜しくも受賞を逃してきた小杉英了さん。4度目のノミネートとなった作品『先導者』(応募作「御役」を改題)でついに、第19回日本ホラー小説大賞の栄冠に輝いた。

「結果はどうあれ、毎回自分の書きたいと思うイメージを信じて書いてきました。落選したらしたで、また新しい作品に取りかかればいい。いつか誰かが評価してくれるんじゃないかな、というくらいの気持ちで構えていましたね。周囲からは“もっと受賞作の傾向を研究したら”とアドバイスされたんですが、学生時代から傾向と対策は立てられないタイプなんです(笑)」
 

advertisement

こすぎ・えいりょう●1956年、北海道生まれ。公務員、広告企画業、翻訳業などの職を経て、現在自営校正業。2012年「御役(おやく)」で第19回日本ホラー小説大賞・大賞を受賞。受賞作を改題した『先導者』で作家デビューを果たす。

『先導者』は死の直後に訪れる意識の変化を、徹底的にリアルなタッチで描いたスピリチュアル・ホラー。死の瞬間を迎え、肉体を離れた魂は、どんな光景を目にするのか。小杉さんのペンは、死を知らないわたしたちに、魂の世界をまざまざと見せてくれる。

「人間はいつか必ず死ぬものです。もっと死について考えてもいい。目指したのは“死のシミュレーション”。読者の皆さんには、読書を通じて一度死んでもらうことになります(笑)。もちろんわたしも死後の世界は見たことがない。主人公に導かれるようにして、イメージを巡らせてゆきました」

 物語の主人公は人里離れたコテージでひっそりと暮らす15歳の少女。彼女には生死の境を往還することができるという、特殊な能力があった。

 ある日、彼女を養っている巨大な組織から命令が下る。幼くして川で溺れ死んだ有力者の孫娘の魂を見つけ出し、しかるべき場所まで先導するのが彼女の仕事だ。組織には同様の能力をもった少年少女(=「先導者」)が、何人も存在している。

 命令に従って、死の世界を訪れた少女。だが、人為的な死という体験は、幼い身体を容赦なく傷つけてゆく。

「少女が属しているのは、この世の悪を体現するような組織。自分たちの利益のために、少女の人生を弄んでいます。一方、少女は無垢なるものの象徴ですね。与えられた運命を、何の疑問も抱かずに受け入れている」

 ある出来事をきっかけに少女は、自らの宿命に疑問を抱くようになる。人形のように生きてきた主人公が、少しずつ周囲の世界に目を向けるようになる過程は本作の大きな読みどころだ。

「名前すら与えられていなかった少女が、初めて自分と世界のあり方を疑って、個性に目覚める。その驚きを描いてみたいと思ったんです」

 神秘思想の研究家としてすでに『シュタイナー入門』などの著作もある小杉さん。目に見えない世界には、幼い頃から強く惹かれていたという。

「現実の向こうにもっと広大な世界が存在しているんじゃないか。そんな思いは子供時代からずっと抱き続けていましたね。宗教や思想、文学に惹かれたのも、現実の先にあるものをちらっと垣間見せてくれるから。日常の壁を突き破りたい! という思いが創作のエネルギー源になっています」

 そうした思いから生まれた『先導者』は、死の恐怖とともに魂の自由を高らかに謳いあげている。

「震災を見ても明らかなように、ありふれた日常はとても危ういものです。現実と背中合わせにある危機に思いを馳せていただければ。そして、悲劇的な運命から再生しようとする主人公の姿に、何かを感じていただけたらうれしいですね」

(取材・文=朝宮運河 写真=首藤幹夫)
 

小杉さんからビデオメッセージも!

 

紙『先導者』

小杉英了 角川書店 1470円

7歳の少女・七美が自宅近くの川で溺死した。人里離れたコテージでひっそり暮らしていた「わたし」は本部に呼びだされ、七美の遺体と対面することに。それが「先導者」としての初めての仕事だった─。生死の境を往還できる特殊能力者たちを描いたスピリチュアル・ホラー。