第19回日本ホラー小説大賞 読者賞『ホーンテッド・キャンパス』櫛木理宇インタビュー
更新日:2012/11/6
くしき・りう●1972年、新潟県生まれ。大学卒業後、アパレルメーカーなどの勤務を経て、執筆活動を開始。現在会社員。2012年「ホーンテッド・キャンパス」で第19回日本ホラー小説大賞読者賞、「赤と白」で第25回小説すばる新人賞を受賞。好きな作家はジョン・ソールやルース・レンデルなど。
櫛木さんが文学賞の公募に向けて小説を書き始めたのは、二年前のことだった。
「38歳の誕生日を目前にして、ふと思ったんです。“もう人生の折り返しが始まるというのに、このままでは老後に自分の人生を振り返った時、何も思い出すべきことがないんじゃないか”って(笑)」
そこで一念発起して、様々なエンターテインメント小説を書き始めた中の一作が今回の受賞作だったわけだが、ホラーというジャンルを絞り込んだ賞に応募するにあたっては、それなりに作戦を練ったそうだ。
「正統派のホラーを書いたら、他の応募者の方々には敵わないだろうと思ったんです。それならば、ホラー的な要素の入った青春小説にして、怖がってもらうというより、キャラクターに共感していただけるような作品にしようかなと思って」
その言葉の通り、『ホーンテッド・キャンパス』はホラ大史上初の学園青春モノなのである。
主人公はさえない草食系男子の大学生・八神森司。人と変わったところがあるとしたら、ほんの些細な霊感があることぐらいだ。
怖がりの森司にとって、中途半端な霊感など邪魔なだけ。だが、一度だけ役にたったことがあった。高校生の頃、憧れの美少女・灘こよみに不穏な影が近づくのに気づき、体を張って危険を防いだことがあったのだ。
それが縁になったのだろうか。森司は一浪して入った大学で、再びこよみと巡り合い、オカルト研究会なるものに入部することになるのだが……。
「コージー・ミステリーのホラー版とでもいえばいいのでしょうか。普段の生活の中に、ちょっとした非日常が見え隠れするような物語にしたかったんです。今回の作品には、飛び抜けて強い力を持つ人間は出てきません」
そう。オカ研の黒沼部長は単なるオカルトマニア、ボディガード役の泉水は腕っ節はなかなかとはいえただの大学生。姉御肌の先輩・藍にいたっては興味本位で入部したオカルト素人。
「あまりにも浮世離れした設定にするより、登場人物たちを身近に感じ、共感してもらえるような物語にしたかったんです」
とはいえ、そんな彼らのもとにも、オカルト的に悩める人々がやってくる。身近で起きる怪事件を解決してほしい、と。壁に浮き出た顔、繰り返される明晰夢、騒霊現象、ドッペルゲンガーなどなど、本流ホラーというべきモチーフに一捻りを加えた筋運びは、ホラーマニアでも、ホラーは苦手という読者でも楽しめることだろう。
「続編もすでに書き終わっていまして、森司とこよみの恋の行方や、オカ研のみんなとの関係性もどんどん変わっていきます。皆さんに、彼らを好きになってもらえるといいのですが」
ところでホラ大の受賞後、小説すばる新人賞も獲得した櫛木さん。ダブル受賞者として、今後の抱負をこう語ってくれた。
「本当は本作のようなノリのよい作品より、ちょっと暗めの話のほうが得意なんです(笑)。枠にとらわれず、様々な作品を書いていきたいですね」
(取材・文=門賀美央子 写真=首藤幹夫)
ちょっとした霊感がある以外はごくごく平凡な大学生・八神森司は、片思いの相手・灘こよみを追いかけて不本意ながらオカルト研究会に入ってしまう。オカ研では学生たちから怪奇事件の解決を請け負っていた。怖がりの森司も、いきおいミステリアスな出来事に巻き込まれるが……。ホラーあり謎あり恋ありの青春ラノベホラー。