東大合格者数1位の超進学校野球部が考えた常識破りのセオリーとは?

スポーツ

公開日:2012/11/3

 10月25日、今年もプロ野球のドラフト会議が開かれた。毎度のことながら、上位指名された選手の出身高校を見てみると、多くのプロ選手を輩出してきた“野球の名門”ばかりが並ぶ。こうした高校の多くは、「文武両道」を謳いつつも、野球をはじめとするスポーツ選手が在籍するコースと、難関大学への進学を目指すコースが別に設けられていることが一般的だ。つまり、部員ひとりひとりが野球が上手くて頭も賢いという、真の意味での文武両道を体現している高校など、滅多にあるものではないということ。東大や京大に何十人も進学する進学校ともなれば何をかいわんや……と思いきや、意外とそうでもないようだ。

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 その代表例が、30年連続東大合格者数トップを誇る開成高校だ。2005年には夏の甲子園の予選である東東京大会でベスト16。今夏もベスト32に入っている。東東京と言えば、帝京高校や関東一高などの強豪校がひしめき、140校以上が参加する激戦区のひとつだ。そんな中で、超・進学校の開成高校があと少しで甲子園が見えてくるところまで勝ち抜いているのである。

 ひ弱でいかにもスポーツができなさそうな印象のある開成高校野球部がなぜ勝てるのか。その理由を同校への取材をもとに解き明かしているのが、9月28日に発売された『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』(高橋秀実/新潮社)だ。

 この本によると、開成高校野球部は定説とされている「野球のセオリー」を無視した戦略を取っているという。例えば、しばしば野球の基本と言われる「投手を中心とした守りの強化」はせずに、とにかく打ちまくるチームを作る。打線も2番に最も打てる打者を置く。なんでも、どさくさに紛れて大量点を取って勝つのが、同校の戦い方らしい。

 そして、持ち前の“頭脳”を武器に、練習効率を上げる。もちろん、試合中にもその頭脳は存分に生かされていることだろう。その結果、格上とみられる高校相手にも、勝利を手にすることができているのである。弱者が頭を使って強豪に勝つ。いかにも日本人が好みそうなストーリーがそこにある。

 この開成高校野球部のような話を、小説に仕立て上げたのが『偏差値70の野球部』(松尾清貴/小学館)。こちらは「角運動保存法則を利用した等速円運動打法」なるものまで登場するなどファンタジックな面もあるけれど、投手の心理状態から配球を読むなど、基本的には開成と同様に“頭を使って野球をして、強豪校を負かす”というものだ。

 しかし、残念ながらこうした“頭脳野球”には限界がある。野球に詳しい人ならわかるように、そもそもこれらの戦術は珍しいものではない。強豪校にも守りより攻撃を優先したチーム作りをする高校はいくらでもあるし(一戦必勝のトーナメントでは、攻撃型の方がいいこともあるようだ)、2番打者最強論は1950年代の西鉄ライオンズ黄金時代を支えた理論のひとつ。プロはもちろん、高校野球であっても強豪校は“頭脳野球”をやっているのだ。“頭脳野球”に加えてセンスと体力を兼ね備えた相手には残念ながら敵わない。開成高校もベスト16が限界なのだ。本当に才能が図抜けている連中を相手に戦うというのはかくも厳しい。
 
 プロ野球を見ていると、ついつい選手たちの超人的なプレーに目を奪われるが、彼らとて当たり前のように頭脳野球をしている。これらの本を読むと、トップ選手たちには当たり前すぎて、逆にあまり語られない頭を使った野球の魅力を、再発見できるかもしれない。

 日本シリーズも終わり、野球ファンにとっては本格的なオフシーズン。来たるべきシーズンに向けて、超進学校の野球理論から、新しい野球の楽しみ方を教わってみるのもいいだろう。

文=鼠入昌史(OfficeTi+)