「ほんのまくら」でも圧倒的人気! 読みたくて震える穂村弘の言葉

文芸・カルチャー

2012/11/3

 今年の夏、紀伊國屋書店新宿店で行われ、大きな話題を呼んだ「ほんのまくら」フェア。本のタイトルや著者名を隠し、表紙には本の書き出し(=本の枕)だけを打ち出すという一風変わった催しで、“ジャケ買い”ならぬ“出だしの言葉買い”をする客でフェアの棚の前は連日大賑わいだった。

そんな「ほんのまくら」フェアで売り上げ1位に輝いたのは、歌人・穂村弘の詩集『求愛瞳孔反射』(新潮社:単行本、河出書房新社:文庫)。本書のまくらは、「あした世界が終わる日に一緒に過ごす人がいない」というもの。本の冒頭だけが勝負ゆえ、短歌で磨かれた穂村の言葉はインパクトも強かったようだ。

最近では、ちょっぴり自虐的なエッセンスが詰まったエッセイに中毒者も多い穂村。しかし、その“言葉力”の高さを味わえるのは、やはり歌集だろう。今回は、「ほんのまくら」1位記念に、これまで発表された『ドライ ドライ アイス』(沖積舎)、『シンジケート』(沖積舎)、『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』(タカノ綾:イラスト/小学館) といった歌集から、穂村の印象的な短歌を紹介したい。

まず、穂村といえば文化系女子の心をわし掴む、ロマンティックさを魅力に挙げる人も多いはず。たとえば、『終バスにふたりは眠る紫の<降りますランプ>に取り囲まれて』『冷蔵庫が息づく夜にお互いの本がめくられる音』なんて、超絶スイート! ではないか。さらに、『体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ』というのも、なんだか微笑ましくて頬が緩む1本だ。ほかにも、『「酔ってるの? あたしが誰かわかってる?」』『「ブーフーウーのウーじゃないかな」』『「その甘い考え好きよほらみてよ今夜の月はものすごいでぶ”」という会話モノにも、言葉選びのかわいらしさが光る。

一方、切なさが滲む歌もいい。『ほんとうにおれのもんかよ冷蔵庫の卵置き場に落ちる涙は』『忘れたいことを忘れろアルファベットクッキー池のアヒルに投げて』『ハロー 夜。ハロー 静かな霜柱。ハロー カップヌードルの海老たち。』といった歌には、なんともいえない身近さがある。冷蔵庫に用意された卵用の特別な場所に、子どもの頃よく食べたアルファベットクッキー、そしてカップヌ―ドルの干からびたエビ……モノに漂う哀愁に、よりいっそう胸を疼かされてしまう。

そんな哀愁感と同じように、どことなくノスタルジックな雰囲気が感じられる歌も数多い。『オール5の転校生がやってきて弁当がサンドイッチって噂』『お遊戯がおぼえられない君のため瞬くだけでいい星の役』なんて思わずくすっと笑ってしまう歌もあれば、『校庭の地ならし用のローラーに座れば世界中が夕焼け』という、その情景や心象風景さえも想像させられる歌も。

短い言葉のなかに宿る、さまざまな思いや時間。穂村の言葉にもっと触れてみたい人には、過去の作品がピックアップされている歌集『ラインマーカーズ』(小学館)や、その歌世界を新鋭歌人・山田航が1篇ずつ解き明かし、穂村自身が応えて語っている共著『世界中が夕焼け 穂村弘の短歌の秘密』(新潮社)がオススメ。ふとした瞬間、思いが重なって暗唱してしまう――そんな人生の伴侶のような、お気に入りの1篇にきっと巡り合えるはずだ。