子役&アイドルブームを予見!? 早すぎた綿矢りさの小説

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/26

 “こども店長”の加藤清史郎のブレイクにはじまり、大ヒットドラマ『マルモのおきて』でピークを迎えた子役ブーム。芦田愛菜鈴木福、『家政婦のミタ』の本田望結など、そのブームはいまも継続中。その一方、AKB48やハロー! プロジェクトをはじめとするアイドルグループでも小学生デビューすることも決して珍しくはなく、低年齢化が進んでいる。

こうした“子役&低年齢アイドル”ブームを予見したかのような小説が、綿矢りさの『夢を与える』(河出書房新社)だ。2006年に発表され、10月5日に文庫化されたこの小説は、子役モデルの主人公・夕子が、成長とともにブレイクを果たし、若くして転落するまでを描いた作品。文庫版では、現在公開中の『のぼうの城』でもメガホンを取った映画監督の犬童一心が解説を寄せているのだが、そこでは子役の残酷な現実が綴られている。

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犬童は、まずCMの新人ディレクター時代に行った、子どもを起用したCM撮影の現場を振り返る。撮影では、CMに登場する子どもとは別に、同じような背格好の子どもがテスト用にもうひとり用意されているという。ある撮影では、その子どもがただ立っているだけでいいにもかかわらず、とても真剣に、ニコニコとカメラの前で振る舞っていた。しかし、本番になると違う子と交代を命じられる。犬童は、その子が母親にぼそっと「ほんとは、わたしのとき撮っていないよ」という言葉を聞き、「ぞっとした。胸が痛んだ」と書く。そして、「人と比較され続け、自分の価値、その判断を他人に譲る事を良しとする」という“契約書”にサインをしない限りスタートラインにも立てない現実と、「傷つける側の罪はないことになっている」芸能界のあり方に論及している。

こうした、実際に起こっている“子どもが消費される”さまを、『夢を与える』はつぶさに描く。学校では“あのCMの子”として扱われ、自分の成長さえも“商品”として流通する。夕子は大切な人の葬儀で見せた素の姿がギャップとなり芸能界でのブレイクのきっかけになるのだが、それも皮肉な話である。だからこそ、世間からの注目が高まるなか、テレビ的な価値から外れたストリートダンサーに惹かれていく夕子の姿はとても理解できる。しかし、そんな恋も、夕子を裏切っていく……。この展開には、プリクラが1枚流出するだけで総攻撃を受けてしまう、現実に生きるアイドルたちの顔が思い浮かんでくる。

発表時は失敗作と酷評され、その後スランプに陥ったと綿矢も語っている本作。だが、芸能界というある意味凡庸なテーマをあえて選び、どこまでも淡々と、そして冷徹に夕子を活写していくこの小説は、綿矢の実力が如実に表れた傑作といって間違いない。とくに、子役・アイドルブームに湧く今は、時代に批評的な作品としても楽しめるはずだ。

ちなみに、情け容赦ないラストシーンを「ウエスタン」と評する犬童は、「興奮する。撮ってみたいなあと思う」と述べている。いつか犬童の手で本作が映像化されることも期待したい。