勝地 涼「衝撃の現実をただ受け止め、考えることにひたすら徹した一冊」

芸能

公開日:2012/11/8

 今は読めない……東日本大震災・被災地の真実を描いた、来春公開の映画『遺体~明日への十日間~』の撮影を終え、原作を手にしたけれど、キツくて。そこでした選択は、著者・石井光太の別の本を読むことだった。勝地さんが選んでくれたのは、アジア最貧層の現実を伝えた写真エッセイ集『地を這う祈り』。

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 「すごい衝撃でした。日本にいると、けっして知ることはできない。けれど、そこには“過酷な現実、教えます”みたいな空気は皆無で、石井さんの視点が、何かを探しているようなところが、すごくいいなと思いました」

 血を流しながら物乞いをするストリートチルドレン、肉親の遺体を使って喜捨を求める死体乞食……茫然としてしまう写真の中の人々を前に“相手の置かれている立場を理解していれば恐れをなして走り去るような真似はしない”という著者の言葉が鳴り響く。そこから自分が何を考えるか、試されるように。

 「この本を読んだからといって、現実を知ったと思ってはいけないし、何かしてあげられることはないかと思うのもどこか違う。抱いた感覚、うまく表現できないんです。それほど伝わってくるものが大きくて。石井さんは、その感覚を言葉にできるからいいなと、思って読んでいました」

 湊かなえ『往復書簡』所収の「二十年後の宿題」を原案に映画化された『北のカナリアたち』で演じた生島直樹も、伝えられない言葉、想いを持ち続けてきた。20年前に起きたある事件により、引き裂かれた教師と教え子たち。だが、ひとつの事件を機に再会し、それぞれが抱える心の傷と真実が明らかに……教え子のひとり、直樹は、中でも複雑な心境と事情を抱えている。

 「自分の家庭の問題を“それは違う”と頭ではわかっていながらも、クラスの子のせいにして、直樹は悲劇を呼んだ。それを抱え、大人になった彼が、これまでの時間をどうやって埋めてきたのかを考え続けていました」

 だが、吉永小百合演じる先生との再会シーンで、その疑問は一瞬にして解消されたという。「“先生に聞いてもらいたい”って気持ちが自然に出てきて、ぽっかり空いていたその穴が埋まっていく心地がしたんです」

 先生と教え子だった互いが、ひとりの人間同士として会うという本作のシチュエーションにも、新鮮な感慨を覚え、恩師に会いたくなったと語る勝地さん。

 「小学校の卒業式の時、先生に言った“ありがとうございました”なんて、多分、意味わからずに言ってました(笑)。でも今なら、ちゃんと想いが込められる。先生との想い出は誰しもが持つもの。たくさんの世代の方に観ていただき、それぞれの思いを巡らせてほしいです」

■勝地 涼さんが選んだ一冊
地を這う祈り』 石井光太 徳間書店 1680円
道端で死んでいく少女売春婦、シンナーに溺れるストリートチルドレン……15年にわたる海外取材で撮りためた数万点の中から厳選された写真。その衝撃的な現実とともに、突きつけられるのは、なぜ彼らはその状況にいて、何を思って暮らしているのかということ。問題作を連発する石井光太の、ひとつの集大成的一冊。

取材・文=河村道子
ダ・ヴィンチ12月号「あの人と本の話」より)