踊ることは違法!? 奇妙な取り締まりにご用心

社会

更新日:2012/11/8

 取り締まり内容が時代に合っていない、という理由で、近年クラブミュージック愛好家や音楽関係者の間で物議を醸している「風営法」。そのうちのひとつ「ダンス規制」を皮肉めいたタイトルにした磯部涼氏の著書『踊ってはいけない国、日本 ―風営法問題と過剰規制される社会』(河出書房新社)が、話題をよんでいる。

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風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)とは、1948年に「風俗営業取締法」として制定された、ナイトクラブやディスコなど風俗営業に関して規定をもうけている法律のこと。それによると、「深夜24時以降に酒類を提供し、客を踊らせることは違法」という、制定時より変わらない時代錯誤な内容。ゆえに、実際は取り締まる側と店舗の間に暗黙の了解が成り立ち、長年“ザル法”と揶揄されるくらい機能していなかった。それが2010年に事態は一変。大阪の繁華街、通称アメ村で相次いだ暴行事件や近隣からの苦情が原因となって「暗黙の了解」が崩壊、取り締まりが強化。大阪では、優良営業店舗も含めたクラブの一斉摘発が起こった。大阪をはじめ関西のクラブシーンはここ2年間で激変したという。

 本書がおもしろいのは、そんな風営法について各界の識者の考えを紹介しつつ、ここ十数年間に排除されつつある同様の「グレー・サイド」をも俯瞰しているところにある。共通する問題として、それらを取り締まる法や条例が“取り締まる側が恣意的に運用できる”あいまいさをはらんでいる点を挙げる。

たとえば、青少年の健全な成長を保護するための「青少年保護育成条例」。2010年の改定案では、マンガ・アニメ・ゲーム内に登場するキャラクターの性的・暴力・残虐表現において、年齢設定がどうであろうと“見た目が18歳未満”であれば「非実在青少年」と定義し、取り締まり対象にするという内容が物議を醸した(その後否決)。2012年10月に施行された「私的違法ダウンロード刑罰化」では、ユーザーが違法にアップロードされたデータを“違法と知りながら”ダウンロードした場合に違法となり、2年以下の懲役または200万円以下の罰金、あるいはその双方が課される。また7月より施行されたレバ刺し違法化(こちらも依然提供する店や、脱法レバーなるものが存在)も同様だ。

「これらの問題は、ひと続きのもの」と氏は指摘。背景にはどれも「国民のリテラシーの欠如」があるというのだ。たとえば無関心。またたとえば、他者への規制を喜び、不幸をつるしあげる姿勢だ。そんな状況下での取り締まりは根本的な解決にはならず、むしろ「自分たちの首を絞めることになる」という。本書は、ダンス規制をとっかかりに、さまざまな日本のあいまいな規制と、日本人の向かうべき未来を考えることができる1冊だ。

 日本語では元来「識字」と訳されてきた「リテラシー」。大切なのは、自分の盲目さに気付き、いま周りで進行していることに目を向けることなのかもしれない。

文=池尾優(ユーフォリアファクトリー)