中世、このおもしろき世界を表現する野村萬斎の“たくらみ”とは

芸能

2012/11/12

 戦国の世に本当にあったお伽話のような戦記を、現代的な時代小説に仕立て累計150万部を超えるベストセラーになった『のぼうの城』。この作品がいよいよスクリーンに登場する。もともと映画脚本として練られた物語だけに、映像のクオリティは間違いないわけだが……。

 「合戦シーンは本当に素晴らしいですよ。一観客として思わず見惚れてしまうほどでした」

 主人公の武士・のぼうこと成田長親を演じた野村萬斎さんは、愉快げに撮影時のエピソードを紹介してくれた。

 「共演の方々のキャラがすごく濃くて。佐藤浩市さんはキレのある動きでかっこいいし、ぐっさん(山口智充)はグワッと目を剥きっぱなしだし(笑)。そんな皆さんの演技に支えられて、私も『のぼう』という一風変わった人物を自然に演じられたのかもしれません」

 成田長親は、武蔵国(現在の埼玉県周辺)に領地を持つ成田氏の一族で、石田三成率いる豊臣軍に攻められた時に城代を務めた人物だが、本作では周囲から「でくのぼうの、のぼう様」と親しまれる、茫洋とした人物として描かれている。

 「とにかくつかみどころのない男ですから、どう演じるか少々悩みました。しかし、皆さんと演技のキャッチボールを繰り返すうちに人物像ができあがっていった。なかなか魅力的な男になったと思います」

 封建時代の人物といえば、萬斎さんは以前、シェイクスピアの『マクベス』を演出、自ら主演している。国や時代は違えども、下克上の殺伐とした世に起きた実話を劇化したという点で、二作は共通する。

 「近世に入る前の社会というのはとてもおもしろいんですよ。狂言もそうですが、登場人物がとても人間くさい。それと同時に、自然や形而上の存在に対する恐れが強く残っている。たとえば『マクベス』には不吉な運命を予言する3人の魔女が登場しますが、私は彼女たちこそこの作品の主役ではないかと思っています。また、人間の心には必ず正の側面と負の側面がある。そこに生じたひずみは少しずつ蓄積し、そして最後には爆発します。マクベスが主君を殺して王位を簒奪(さんだつ)したのは、まさにその爆発であり、僕はそういう面を含めてこの作品を表現していきたいんです」

 来年の春には、新たな演出で再び『マクベス』に取り組む予定にしているという。

 「シェイクスピア作品をはじめとする古典文学は、人間の根源的な部分を押さえているから、自由にアレンジしても本質は転びません。そこにどういうふうな現代性を見出すかが、重要なテーマになってきますね」

■野村萬斎さんが選んだ一冊
新訳 マクベス』 シェイクスピア/著 河合祥一郎/訳 角川文庫 420円
反逆をそそのかす3人の魔女の予言に魅入られ、主君を殺して王座を手に入れたマクベス。だが、疑心暗鬼に陥った末に粛清を重ね、自らを破滅の淵に導いていく……。野村萬斎による上演を前提に、耳で聞いた時のわかりやすさを重視して、気鋭の英文学者・河合祥一郎が新しく翻訳したシェイクスピア悲劇の最高峰。

取材・文=門賀美央子
ダ・ヴィンチ12月号「あの人と本の話」より)